第六話 初授業
ガルドの授業は戦闘理論、その中でも近距離を中心としたものである。
風って中距離対応のイメージしかなかったから、この際に近距離のことについて学ぶのはいい機会かもしれないな。
「まずは戦闘の基礎から始めるぞ。俺の鋼魔法は『身体もしくは所持している武器、防具のある一点を強化、または全てを強化』できる魔法だ。これだけ聞けば全員が『全てを強化』をするのが強いと思うやつは多い。」
なるほどな、この言い回し的に、後者にはデメリットが存在しているということだろう。
ガルドはニヤリと微笑む。
「勘のいい奴らは気づいていると思うが、『全てを強化』にはデメリットがある。『一点を強化』に比べて防御力が薄くなるんだ。何が言いたいか分かるか?自分の魔法のメリットデメリットを理解した上で戦闘をすることが一番大切なんだよ。」
確かに言われてみれば、風魔法のメリットは工夫のしやすさだ。
もちろん、弱いという前提知識で見くびってくる相手の隙をついて倒すこともあったが。
デメリットといえば、威力が単体では発揮しにくいことくらいか。
「例えば俺の魔法だと、遠距離相手には『一点を強化』を使う。矢だったり、遠距離特化の相手は威力が高い。『全てを強化』だとダメージを食らうリスクが高くなるからな。逆に、相手に近づいた時は『全てを強化』だな。ナイフや槍が来ても、盾で防げないところをカバーできる。」
なるほど、ガルドは普段は盾に強化をしていて、近距離もしくは複数相手には『全てを強化』を使っているのか。
俺の場合は単体相手じゃ性能が出にくいから、他の技と組み合わせて戦う、そんな感じか。
それから小一時間ほど授業は進み、終了した。
休憩時間は十五分程度か、それなら次の授業の準備をして、他の教室がどんなものか見に行くのもありか。
俺はミアに次の授業のことについて聞いた。
「なあミア、次の授業ってなんだ?あいにく時程表を忘れてしまったんだ。」
ミアはこちらに振り向いた。
「次の授業?確か古代文字学じゃなかったかしら?」
絶妙に面白くなさそうな教科だ。
「それって面白いか?さっきのガルドみたいな。」
「人によるわね。」
まあ実物を見なければ判断できない、か。
ただやる気が起きないのはその通りだ。
その時、俺は肩を叩かれた。
冷たく、肌の白い、人形のような手に。
「こんにちは、風魔法さん。」
そこにはプリアスが立っていた。
あの不気味な微笑みを顔に貼り付けたまま。
「あ、えっと、メイル家の……。」
「プリアスよ、自己紹介の時に覚えて欲しかったけれど。」
プリアスは俺に目を合わせてくる。
「見た目は悪くないわね、それで、どんな事をしてAランクに来たの?風魔法さん。」
「名前くらい覚えてくれ、アランだ。不正を疑ってるとかなら違うな、俺は何もしていない。」
ふぅん、と興味のなさそうな相槌を打つプリアス。
「そう、せいぜい足掻いてみてちょうだい、私の闇魔法に勝てるとは思えないけれど。」
プリアスはまたね、と言い、手をひらひらと振りながら自分の席へと戻る。
人生の中で最も危険で最も焦った瞬間だったかもしれない。
「ね、ねぇ、君も、その、大変だね……。」
そうやって俺に声をかけてきたのは、後ろの席にいた、髪で片目が隠れて見えていない女子生徒だった。
「えっと、君の名前は……?」
その女子生徒は慌てて手をぐるぐると回すと
「あ、その、変とか、そういうの、じゃ。あ、えと、わた、私の、名前は、トニク・ポラリス、です。」
ミアが驚いたような声を出す。
「ポラリスって、あのポラリス家?」
「あわわ、そんなに、大きな声を、出さないでください……恥ずかしくて死にそう……。」
見るからに目立つのが苦手という感じの生徒だ。
「なあミア、ポラリス家ってどんなところなんだ?」
「重力魔法の名家よ。この学校ほんとに色々な名家が集まってるわね。ホリック家の名前が霞んじゃうじゃない。」
重力魔法。
明らかに強そうだが、本人の性格や使い方にもよるだろう。
「重力魔法って名前の通りなのか?」
トニクは慌てる。
「え、えと、は、はいっ。」
「ねえあんた、目立つのが嫌ならなんでAに来たの?」
かなりズバッと言ったな。
ミアは空気を読まない、というよりかは苦手なようだ。
「うぐ。」
トニクは言葉を詰まらせ、俯いた。
「まあまあ、ミアだって困らせたかったわけじゃないと思うんだ。純粋に気になるだけだと思うから、よければ教えて欲しいな。」
トニクはポツポツと呟く。
「私は昔から、根暗で、運動もできなくて。でも、勉強と魔法だけは誰にも負けないくらい自信があったから、今まで迷惑をかけてきたお母さん達に、少しでもいいところを見せたくて……。」
「随分と健気なのね、いいことじゃない。私だったら強くなるためだけにここに来てるから、そう言ったことはお門違いね。」
「みんな違った目標があってここに来たってことだろ?それならそれでいいだろ。」
そういえば、と思い出して、時計を見ると、次の授業の5分前というところだった。
「俺まだ準備してないから、準備してくるわ。」
俺は自分の席に戻り、教科書を準備しようとした。
机の上に、見慣れない手紙がある。
ふと気になって、その手紙を見ることにした。
「放課後、屋上で待っているわ、風魔法さん。来てちょうだいね?」
おそらくプリアスの手紙なのだろう、俺を屋上に呼んで、何がしたいのかは見当がつかない。
ひとまず手紙は、鞄に入れて保管することにした。




