第五話 いざ教室へ
「よく眠れた…。」
初めてフカフカのベッドで寝たかもしれない。
村ではいつも薄い毛布のようなものだけだったからな。
顔を洗い、制服に身を通して、食堂へと向かう。
「アーラーンー!」
奥から元気のいいミアの声が聞こえてくる。
「お前朝から元気良すぎだろ…。」
「アタシは朝型なのよ!それに朝食と夕食のメニューが違うって聞いたのよ!」
「それは随分と楽しみだな?」
ミアと2人で昇降機に乗り、食堂へと向かう。
朝一の食堂は思っているよりも人が少なく、席も空いており、料理も取り放題だった。
「入学二日目でこんな奇跡に巡り合えるとはな、俺もかなりラッキーだ。」
「アラン、見てこれ。アームスパイダーのフライよ!」
見るからに蜘蛛を揚げたようにしか見えない、いや、実際揚げているのだが。
いかんせん見た目がグロテスクすぎる。
「…あー、食欲をそそる見た目とは、言えないな。」
「栄養価も高いし美味しいのよ?」
「…悪い、俺はパスしとく。」
「ちぇっ、つれないなぁ〜。」
なぜそんなに残念そうな表情を浮かべられるのだ、お前は。
そういえば、前に図書館に行ったときに書類を読んだことがあったな。
アームスパイダー、ダンジョン内に生息しているD級程度のモンスターとのことだ。
アームスパイダーの吐く糸には毒性があり、アームスパイダー本体にも毒が存在しているが、加熱することで無くなるとのことだ。
書類にイメージ画もあった、それを抜きにしてもそれにしても見た目がただの蜘蛛のフライすぎて流石に無理すぎた。
「すまんミア、流石に見れないわ、直視できん。」
「そんなぁ…美味しいのよ?らっれほら、ろんらり。」
ボリボリといい音を立てながら喋るミア。
「食べながら喋るな、蜘蛛の破片がこっちに飛ぶ。」
そんなこんなで食事を終えた、これから毎日これが続くのか?と考えると幸先が不安だ。
「そういえば、お前と俺って同じクラスなのか?」
「そうねぇ、壁紙に貼られてあるクラス表を見ないといけないわ。」
「ミアは見たのか?」
「見たけど忘れたわ。」
「…聞く人を間違えたようだ、とりあえず行くぞ。」
ホールの一階にある掲示板にクラス分けの結果の紙があるみたいだ。
「どれどれ…1-A、アラン。俺は1-Aだったぞ。Aランクだから当然と言えば当然なんだけどな。」
「アタシもそうよ。1-A、ミア。」
「お前もAだったのかよ、最初に言え。」
「……ごめんなさいとは言わないわ!」
言えよ。
「全く……そういえば、授業って何時からだ?」
「大体八時半からHRよ。」
まだ一時間程度の自由な時間はある。
もう少し自分の部屋で休むのもいいかもしれないな。
「アタシはご飯も済ませたし、教科書とかの準備を部屋でするわ。」
「ああ、俺もそうするよ。」
さて、そろそろ教室へと向かおうか。
教室のドアに手をかけて、右に開く。
すでに着席している人は何名かいた。
特徴的なのは、一番右端にいる銀髪ロングの女子、一番後ろにいる片目が髪で隠れて見えない女子の2人だろう。
他にも生徒は様々いたが、ここでは割愛させてもらう。
しかし、だ。
全員Aクラス、全員が侮れない相手だ。
「アラン!一緒に行くって約束したでしょ!」
身に覚えがない約束をミアに強制的に結ばれている。
「そんな約束、していない気がするんだが…?」
ミアの中では既成事実になっている模様だ。
「そういえば、授業って何するんだ?」
ミアは指を顎に当てて話し始める。
「そうねぇ、基礎となる戦闘理論、魔法理論。この二つが私たちの戦闘に主に重要になってくるわよ。戦闘以外なら、魔物勉学かしら。魔物のことを知れるわ。弱点だったり、部位の柔らかく食べやすいところだったり。」
「それ食い意地張ってるだけだろ?」
「違うわよ。」
即答だった。
「嘘だな。」
「嘘じゃないわ。」
はあ、と一度ため息を漏らす。
「……それで、戦闘理論と魔法理論ってどう違うんだ?」
「そうねぇ、戦闘理論は剣とか槍とか、近接戦と武器に関する授業よ。魔法理論はその名の通り魔法をするわよ。」
「そういえば、遠距離に対応する武器ってあるのか?魔法みたいな遠距離には勝てないだろ?」
「いい質問ね、そうね、例えば魔法銃は、初級魔法である魔法弾を放つことができる武器よ。簡易版だから、多少威力は落ちてしまうのが、残念なポイントね。」
「まあ同じ強さだったら、魔力を使わずに放てる武器ばっか使うだろ。」
こういう魔法を使える類の武器は随分と魅力的だ。
俺がそう感じているだけなのかもしれないが。
風魔法は単体で使うには威力が出しにくい。
試験の時にも、俺は的を破壊する際に、バフ技を組み合わせて使ったように。
このような魔法とは別のダメージソースとなる武器があると、俺にとってはかなり戦いやすくなるだろう。
「なあミア、魔法銃って普通に売ってるのか?」
「王都の鍛冶屋には普通に売ってるわよ、アカデミーの近くにもあると思うわ。」
「値段は?高いか?安いか?」
「金貨3枚くらいだったかしたら……?私の家は沢山あるから、正直覚えてないわ。」
流石に15日の生活費の価値があるのかどうかはわからない。
「なあミア、もし仮にだ。仮に15日不自由なく生活するのと、魔法銃ならどっちがいい?」
「魔法銃ね。」
ミアは名家だから、金銭感覚が俺と全くと言っていいほど違うだろう。
庶民の俺からすると金貨3枚はかなりの痛手だ。
本当に買う価値があるのか、見極めていく必要があるだろうな。
「直ぐに買う必要ってあるか?」
「アンタくらい強いなら、悩んでいいと思うわ。」
結局は買わないことにした、生活費の方が重要である。
さて、そろそろ本題に戻ろうか。
Aクラスの担任が誰なのかも気になる。
その瞬間、廊下の奥から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
野太い声で、大きく良く響く声。
これはまさか……。
「ガキども、席に着け。」
あの試験の時にいたガルドではないか。
ガルドは俺を見つけた瞬間、少しだけ微笑んだ。
「あの時の風じゃねぇか。俺のクラスになるなんてな?」
「お久しぶりです。」
ガルドは首を振った。
「そう畏まらなくていい。もっと気楽にしろ。」
気楽に出来る気がしない。
「あ、あはは……。」
「まあいい、手っ取り早く自己紹介だけはする。俺の名前はガルド。鋼属性の魔法を使う。使用するのは片手剣と盾だけ。」
なんとシンプルな自己紹介なのか。
鋼属性、あまり聞いたことのない魔法だな。
ここで聞いたら調子に乗っていると思われそうで聞けない。
「俺だけが自己紹介しちゃ、親睦は深めづらいだろ?ほら、お前らも自己紹介するんだ。」
ミアが勢いよく立ち上がる。
出席番号順とかではないのか。
「ミア・ホリックよ。使用する魔法は炎属性。よろしく!」
お前も簡潔な挨拶をするのかよ。
せめて趣味とか、無いのか?
「よし、ミアだな。」
ガルドは綺麗に流すなよ、もっと掘り下げとけよ。
それから先ほど気になっていた銀髪ロングの女の子の順番になった。
「プリアス・メイル。……馴れ合うために来たわけじゃない。勘違いしないで。」
でたでた、典型的なタイプ。
強さ以外求めてない!みたいな奴だな。
「使用する魔法属性くらい教えてくれてもいいんじゃないか?」
ナイスだガイル、たまには役に立つじゃないか。
「闇魔法、これでいい?」
『闇』という言葉が出た瞬間、周りがざわついた。
「や、闇ってまさか……あのメイル家?!」
やばい、ホリック家と同じ現象が起きている。
全く知らない。
俺は近くにいるミアにメイル家のことを聞くことにした。
「なあミア、メイル家ってどんなところなんだ?」
「あんた本当に知らないのね……。」
もう分かっていたかのように呆れてため息を漏らすミア。
「いい?メイル家は闇属性の名家、それも全員が破茶滅茶に強いの。あと全員ここの学園を卒業してるって話よ。」
どうやらまだ知らない強敵がいたみたいだ。
敵かどうかはまだ分からないがな。
程なくして、俺の順番が回って来た。
「アラン・トニックです。使用する魔法属性は風です。よろしくお願いします。」
メイル家とは別の意味でざわつかせてしまったみたいだ。
疑念の目線で見られている。
気まずい。
やはりあの「風」が「Aランク」となると、どうしても疑わざるをえないらしい。
「風がこんなところに来れるわけないだろ?」
そういう声も聞こえて来た。
「お前ら、こいつの試験監督は俺だ。文句があるやつは俺に言ってこい。」
ナイスだガイル。
でも試験のこととか、そんな簡単に発言してもよかったのか?
悪寒。
プリアスが不気味な微笑みをこちらに向けていることに気づいた。
俺の何かを見透かしているみたいに、俺のことを品定めしているような嫌な目線だ。
揺さぶられるな、アラン。
頬を叩いて気合を入れ直す。
よし、授業へと臨もうか。




