表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

国境の女騎士団長の、妙な訪問者

「バーナード隊長! 客人がお見えです」


アイリーは木剣を新人に返すと、すぐ行く、と返事をした。


「隊長、ありがとうございました!」


この新人は、筋が良い。きっと、一瞬で自分を追い越していくんだろうな。そう思うと、アイリーの口からは、自然とため息が出た。


アイリー・バーナード。この国唯一の女騎士団長だ。

夫のカドファンは、指折りの優秀な騎士が集まる王国騎士団の団長だ。息子のアーサーすらも、若くして騎士爵を勝ち取った天才。

対してアイリーは、国境近くの小さな部隊の隊長。やることといえば、野獣討伐くらい。たまに荷物運びや大工の手伝いなんかもしている、雑用隊だ。華々しいとは程遠い。


そんなアイリーに、たった今、熱心ファンができた。


「はじめまして、クリステルシャトランと申します!」


アイリーもだいぶ衰えてはきたが、これでも町では美人だった。息子に関してはかなりの美形なのだが、クリステルの顔はそんなの凡人だと言わんばかりに輝いていた。

 

「お噂はかねがね。この国で女性の騎士殿はアイリー様お一人と聞き、ぜひともお会いしたいと思いまして、ここに来た次第でございます!」


そう言うと、クリステルはアイリーの右手を包み込むように握り、ブンブンと激しく上下に振った。

クリステル・シャトラン。聞き覚えがある。そうだ、アーサーが言っていた。王都の貴族学園で、妙な子爵令嬢がいると。


「……確か、男装令嬢クリステル……」

「ご冗談を。私はズボンを履いているだけで、男装しているわけではございません」


そのとおりだ。アイリーも動きやすいからとズボンを履いているが、男装しているつもりは微塵もない。

それが当たり前すぎて気づかなかったが、クリステルはズボンを履いていた。


「私は王妃様に『なにか面白い施策を打ち出してくれることを期待しますよ』と言われ、学費を支援してもらっているのです。なので、なにか施策をしなければなりません」


クリステルは気持ち悪いほどしきりにニコニコと笑みを浮かべながら喋りだした。

学費のため、男尊女卑の社会を変えようという運動を起こすことにしたこと。

なのに、意外と皆、この社会に不満がないこと。

このままだと、王妃様の機嫌を損ねてしまうこと。

そこでアイリーの話を聞き、遥々駆けつけてきたこと。


「ぜひともお力添えを!」


クリステルは、キラキラと瞳を輝かせ、上目遣いでもなく真っ直ぐと、アイリーを見つめた。真剣な目。嫌いではない。

アイリーは、しばらく黙り込むと、やがて息を吸って喋り出す。


「……確かに、この仕事をするに、女性だからと色々不愉快な事はありました。ですが──」


運動を起こすことには感心する。とても素晴らしい考えだ。

だけど、騎士は力仕事だ。人間の作り的に、仕方がない。


「──私は、お力になれません」


クリステルのキラキラとした瞳が、一瞬で光を失った。あからさまに肩を落とし、しょげている。


「……そうですか。お時間をいただき、ありがとうございます」


どのタイミングで出ていけばいいのかがわからず、とりあえずお茶を勧めた。貰い物のお菓子も持ってくる。

お菓子を食べると、クリステルの輝きは戻ってきた。学生なのにいろんな考えを持っているのだな、と感心していたが、中身はわりと単純に思えた。


「ほうひへば」


お菓子を口いっぱいに頬張ったクリステルが口を開く。

貴族の令嬢とは、もう少しお淑やかでマナーにきっちりしているものだと思っていたが、そんなこともないのかもしれない。

クリステルはゴクリと口の中のものを飲み込むと、無邪気な笑みを浮かべた。


「息子さんがいらっしゃるんですってね」


何度も言われた言葉だ。

顔もよく、剣の天才で、騎士爵という位を持っている。将来有望。話はいつも同じだった。

結婚、婚約。そんな感じだ。アイリーに寄ってくる女性は、大抵アーサー目当てだった。


(この人も、そうか)


「スカートに興味はありませんか?」

「へ?」


アイリーが聞き返すと、クリステルがゆっくりと言い直す。

 

「息子さんが」


息子さんが。ここまでは理解できる。


「スカートに」


この時点で、もう理解できない。


「興味はありませんか?」


ない、といいそうになったが、真剣な眼差しに言葉が飲み込まれてしまった。結局、アイリーは言ってしまった。


「……あるかもしれません」


と。


クリステルは、「連絡をお待ちしております」と連絡先を書いた紙を差し出し、帰って行ってしまった。





次の日。休みの日なのに珍しく外に出た。


「アイリーじゃない!」


振り返ると、ふくよかなおばさんが立っている。おばさんといっても、アイリーと同い年くらいだ。


「もしかして……バーバラ?」

「そうよ、ほんっと相変わらず細いわねー。私なんて、こんなよ」


そう言うと、バーバラは自分のお腹をぽんっと叩いた。

バーバラは、アイリーの友達だ。美人だったので結構モテていたのだが、まさかこうなっていたとは。


バーバラと別れると、文房具屋に行った。年老いたおじいさんがやっているお店だったが、アイリーよりも若い、クリステルくらいの女性が営んでいた。


「便箋をお求め? ならこれがおすすめです。王都で流行っているやつですよ!」

「……いえ、もう少し落ち着いたものを……」

「それならこれはどうでしょう!? なんと、開けてびっくり──」

 

その女性に勧められるままに、買い物を終えると家に帰る。

息子に贈るのに、かわいい花がらの封筒と便箋を買ってしまった。


「まあ、いいか……」


そのまま、手紙を書き始める。

 

書き終わった頃には、もう、きれいな夕焼けが見えていた。


「……来週も、行こうかな」


来週は、夫宛に書いてみよう。


「隊長! みんなで飲みに行きませんか!?」


玄関の方から、声が聞こえた。慌てて手紙を封筒に突っ込むと、大声で「すぐ行くー」と叫んだ。

連載は不定期ですが、なるべく1話で、ある程度話がまとまるように書きます。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ