プロローグ
「お久しぶりでございます、陛下」
そう言うと、男は床に膝を付けた。
学生時代、眉目秀麗と歌われた男の顔は、衰えることなく輝いていた。
ひざまずく男に、王は白く泡立つ酒の入った、グラスを差し出した。
「そうかしこまらなくも良い」
そして、二カッと笑う。
「昔からの仲ではないか」
男は、苦笑いをしながらグラスを受け取った。立ち上がると、やっと柔らかな笑みを浮かべる。
そんな男の様子に、王は楽しげに目を細めた。
「相変わらずだな、リュシアン」
「そんなこともありませんよ」
その言葉に、王は「そうか?」と少年のようないたずらっぽい笑みを見せた。
「噂で聞いたんだが、ヴェルシエール貴族学園で、ある令嬢が騒ぎを起こしているらしいな」
「そうなんですか?」
「どうやら男装をして奇妙な術を使うとか」
髭をなでつけると、チラリと男の様子を伺った。男はハンカチで汗を拭いていた。
「しかも先日は、決闘寸前だった男二人を、説教だけで泣かせたらしい」
「教師たちも、あの娘が現れるたび胃薬が減ると嘆いていたぞ」
王がしゃべれば喋るほど、男の顔色は悪くなっていった。
気まずそうにグラスに口をつけた男は、次の言葉で盛大に吹き出した。
「泣かされた男二人とは、私の息子のことなのだがな、リュシアン・シャトラン子爵」
恐る恐る王の顔を見上げる。
王は満足げな笑みを浮かべていた。期待通りの反応だ、とでも言うように。
「確か名前は──」
そこで、王は言葉を切った。男は、頭を手で抑えて、苦笑いをしていた。
「──クリステル・シャトラン」




