17 飛んで飛んで飛んで
2人の詠唱はほぼ同時に終わり、体が浮かび上がる。
私は迫りくる敵に向けて手をかざした。
「灼熱の炎よ、業火の爆炎よ、立ちふさがる敵をせん滅せよ!」
敵も私の呪文を察知し魔法障壁を広げようとする。
しかしもう遅い。
炎が、閃光が、怒号を上げて広範囲に飛び散った。
敵のちゃっちい魔法障壁程度じゃ防ぎようがない。騎兵は馬ごと爆風に飛ばされて行く。
魔法の炎は火事を起こす温度にはならないのが定説だが、あたりは焼け野原になる。
浮遊する私たちは反動によりとんでもないスピードで吹っ飛んだ。
あっと言う間に窮地を脱出できた。魔法効果が続く3分、ほぼ慣性だけで国境の河まで越える。
「何なんですか今の」
安全地帯にたどり着いてやっとダッシュはあきれ声を出した。
「あなたにはまだ言ってなかったから、知らなかったよね~」
私はごまかすように笑うが、ダッシュの顔は引きつっている。
「私、魔法を手加減できないのよ」
魔力量が膨大過ぎてコントロールは平均の魔法使いより大変なのに、細かい調整が苦手と来た。
子供の頃にやらかしてから、勝手に使うのは絶対禁止にされている。
今回は命がかかっていたし周りに味方がいないからやむを得ないはずだ。
「まともに練習できないからコントロールも覚えられないんだよね」
「練習できない技に命を預けないで下さい」
「あははは」
正論に返す言葉もないわ。
安心していると足の痛みがぶり返す。
ケガの手当てをするためスカートを裂こうとして、両腕のやけどに気がついた。
最大出力で火炎魔法を放ったのだ。自分だって無事ではない。顔だってヒリヒリする。
「応急処置しかできませんが、失礼します」
ダッシュは水魔法で泥を落としやけどを冷やすと、止血の続きをしてくれた。
矢をぬき足に手をそえる。回復魔法も使えるらしく、痛みがじんわり和らいだ。
傷口を布でしばればどうにか歩けそうだ。
「人里に出ないとそれ以上の治療は無理ですね」
「うん、とりあえず行けるところまで行ければいいよ」
山脈の位置と太陽の方角で大体の位置は計算できる。
ただやみくもに飛ばしたわけじゃない。ちゃんとオールデン公爵領に向けて飛んできた‥はず。
(途中で訳分らなくなったけど、大きくはそれてないから、多分)
後は、助けを求められる場所まで移動すれば良いだけ。
周りには小麦畑が広がるから、人里は近いだろう。
しばらく歩けば小道も見つかる。後はそれに沿って進むだけ。
暗くなる前に農家にたどり着けた。
「誰だい、あんたたち」
「対岸から逃げて来ました。ケガもひどいので一晩だけ宿を貸して下さい」
私は首から下げていた財布を取り出す。
「お金ならあります」
農夫は警戒を解かなかった。
「駆け落ちした恋人に見せかけて‥ブルームの脱走兵か。面倒事はごめんだね」
うああ、せっかくスカート姿なのに男同士だと思われている!
女物の服は血にまみれているし包帯にするためスカートのすそを短くしたから脛はむきだしだ。
いかにも女装しましたって格好。
「えっと正真正銘のウィード兵です。センタリオン子爵家の者で」
農夫はため息をつき貨幣を受け取る。
「まあ夜道を歩くのは無理そうだ、干し草小屋で良ければ泊って行きな。水はあそこ、イモなら食わせてやる」
焼いたイモは素朴だが香ばしくておいしい。立ったまま食べていれば毛布を2枚渡してくれた。
干し草小屋に案内されるまでは気がつかなかったのだが‥
(こ、これって2人きりじゃない!)
一気に恥ずかしくなった。いそいで毛布を体に巻き付け、体を隠す。
昨夜だって隣り合って寝たけれど、天幕で3人とは段違い。
そしてこっちが緊張している時に限ってダッシュは私に寄りそってくる。
(え、何、何でいつもより積極的なの? 寒いから? ‥そうでしょうね。それしかないよね)
ああ足が痛い。ズキズキする。
痛みで中々眠れなかった。隣からは規則的な息遣いが聞こえてくるのに。
似たような技で飛行するキャラはいますが、本人と支える人間の負担が大きすぎるのがオリジナリティーです!
それと屁理屈ですが、魔法の炎は温度が低めで山火事などの原因にはなりにくい設定にしました。
そうすれば炎の魔物がいたとしても火事が続発しなくて済みます。
人間が火を点ける時は魔力を収束させ温度を高める必要があります。




