12 交渉
「センタリオン家から使者が来た。お前の無事を確認させる」
私が連れて行かれた天幕にいたのは兄の側近と騎士が3名。内1人はダッシュだった。
「お嬢様、おいたわしい」
白々しい。使者のパーカーは子供の頃から知っているが、そんな言葉かけられた覚えがない。
「ご令嬢の様子は分かっただろう、次は降参の条件だが‥」
城塞の破却だとか身代金だとか私の引き渡し条件が提示される。
「城塞は飲めませぬな。身代金の方は主君に相談せねば」
パーカーがのらりくらりとかわしている。
私はそれを黙って聞いていた。
(あいつが来たってことは交渉じゃなくて奪還だろうな)
パーカーは幻影術が使える。
機を見て私を脱出させるはずだ。
(仕掛けるタイミングが分かればいいんだけど)
クロードが私を側に置くのは逃さないための意思表示。
「こちらとしては姫君を帰す必要はない。自分は独身なので、ちょうど良い女性を探していた」
クロードが軽口をたたきながら私の肩を引き寄せる。
その話を蒸し返すな。ダッシュの目が一瞬私をにらんだじゃないか。
「ご、ご冗談を」
私が口をはさんでも余裕の笑みは消えない。
パーカーが汗をふいた。
「我が領の令嬢を気にいられた理由は?」
「多少乱雑に扱っても壊れなさそうで、都合が良い」
どーゆー条件じゃ。
交渉の条件は整わなかった。
使者たちは話し合いの内容を伝えるため、いったん退く。
私は結界を張られた天幕に放りこまれる。
出入口は一か所だけでそこには見張りが複数いた。
素手で倒しきるのは分が悪い。
やることがないから寝転がっていると、歌が聞こえた。
少々音程は外れているが、我が家に伝わる子守唄。
「お星さま、お月様とお散歩中♪」
私も声を合わせる。
「そこですね」
ダッシュの声が天幕の裏から聞こえ、しばらくすると結界は解除された。
「そんな魔法も使えるなんてスゴ」
物陰に隠れながらほめたのだけど、ダッシュにはそこまで響いていない。
「結界そのものが単純でしたから。魔力も大分消費したので、しばらく身体強化も使えません。それより」
彼の目が細められる。
「帰ってこないと思ったら、まさか浮気しているなんて」
「違うって、あれはあいつが勝手に言っているだけで」
やましさなどカケラもないのにアタフタしてしまう。
それがいけなかったのだろうか。
こっそり天幕を抜け出した私たちの前に、敵将が立ちふさがった。
「誰だ!」
すっごい剣幕で怒鳴られながら剣を向けられる。
こいつタイミングが良すぎるな。あんまり敵にいて欲しくない。
「俺の姫に手を出さないで下さい」
ダッシュは私を背中にかばった。
(これは守られるヒロインの位置! 生まれて初めて!)
キュンとする私に眉間のしわを深くするクロード。
「なるほど、間男か。とうとう私にも幻覚が見えるようになったのだな」
いえこっちが本命です。
あと幻覚扱いはやめろ。
「油断もスキもないな」
はあーと息をはいて、クロードは切っ先を下げた。
「だったらいっそ‥」
何か思案している。
この好きに逃げ出そうかとジリジリ後ずさっていたが、またすぐにらまれた。
「もうすぐ王太子が慰問に来る。捕虜に逃げられたなど笑い話にもならん」
視線がダッシュに移される。
「お前も従者としてなら随行を許可するが、どうする? ここで捕まって殺されるか、お姫様の護衛になるか」
選択肢などない。
ダッシュはうなずいてナイフを鞘に納めた。




