11 ナンパ
天幕がゆらいで兵が入って来た。
「クロード将軍、報告があります」
分かった、と男は天幕を出る。
(しばらく戻ってくるなよ)
今のうちに作戦を確認する。
人質になった場合、できるだけ敵の中に味方を増やすのが我が家のマニュアルだった。
ふうっと息をはいた私に、2人いる見張りの片方がニヤニヤした。
「あんた女なんだってな」
「よせよ」
もう1人は止めようとするが、にやけ顔の方は止まらない。
「女兵は固まって動くし、村には行けないし、少しぐらいはいいだろう」
「まあ‥少しなら」
おい、ダメに決まっているだろう?
「あのさあ、戦闘始まってすぐじゃん。軍規乱れるの早すぎない?」
あきれてたしなめたが、男たちが思い直す様子はない。
(まあそれなら私にとっても都合がいいか)
あの将軍がいない今、私にとっては逃げ出すチャンス。ってか昨夜の女性騎士より、この見張りの方がザコじゃん。
「ねえ、あなたたち私につかない? 子爵領まで無事に逃がしてくれたらお腹いっぱい食べさせてあげる」
男たちはうっと腹をかかえた。
「は、はあ? 俺らに裏切れだと? 故郷の家族にどう言い訳するんだよ」
「さっきも言ったろ、もうすぐ公爵家の増援が到着する。そしたら戦は私たちが勝つ。取り入るのなら今のうちだって」
明らかに動揺する2人。
私がもう一歩踏み出した時、顔色が変わった。
私の口がふさがれる。
「兵を口説くな」
クロード将軍、と呼ばれた男が真後ろに立っていた。
固い甲冑だと体をくっつけてもドキドキできないな。
「あなたがいなくなった途端、触られそうになった方が問題でしょう」
「それは悪かった」
見張りは2人とも交代させられる。
やはり口説くのなら末端より本命だろう。
「ブルーム国のクロード将軍って、もしかして王族でしたっけ」
家族の会話で聞いたことがある。ブルームの王族でまともなのはあいつくらいだって。
「なんでこんな前線にいるんですか?」
「庶子だ。そこまで偉くはないはずだが謀反を疑われることもある」
「それで左遷されたんですか」
納得する私に、クロードはにやっとした。
「お前、助かりたければ私と縁組するか?」
「はぁ? なんでその流れになるんですか」
「貧乏子爵家の嫁をもらえば、王座への未練がないと証明できる」
できるか。
「お断りです。私、無事に戻れたらプロポーズされる予定なので」
「‥妄想癖があるのか」
うるせーわ。
「狙えばいいじゃないですか、王座」
「は?」
「この戦いが無益なことは分かっているんでしょう? あなたが王権を取って収束させてくれれば問題ない」
ついでに付け加える。
「我が国なら第二王女のセシリア様ですね。婚約者の席が空いていますよ」
「本当に口の減らない奴だ」
それ以上はおしゃべりにつき合ってはくれなかった。
というか猿ぐつわで口をふさがれてしまう。
見張りが女性騎士になったのに、これじゃ誰も口説けない。
(夕べの内に済ませておけば良かった)
後悔先に立たず。
それでも次の日は女物の服を用意してもらえた。
返り血で汚れた服を取りかえる。
「そうすれば女に見えないこともないか」
クロードに出合い頭で言われたのがこれ。
「ひどくない? 似合うとか、かわいいとか他に色々あるじゃない」
「ない」
イケメンだからって全てが許されると思うなよ。
春の嵐で体調が‥




