8 初めての?
「今日はもう来ないだろうが籠城戦は勝ち目がない。王都や近隣には救援を要請したが、相手をたたく戦力を連れてくるまで持ちこたえないとな」
「砦をつなぐ橋が壊されたのは痛いですね、とりあえず綱を渡らせて臨時の吊り橋にしましょう」
兄がげんなりしながらローアン様と作戦を話している。
「兄上、私も攻撃魔法の隊に入れて下さい」
私は希望を兄に訴える。
「お前は訓練していないだろう。慣れない魔法を使うのは仲間に損害を出す危険がある。弓の腕は確かなんだから、そっちで頑張れ」
確かに魔法の練習はしていない。今の私の魔法じゃ一般兵以下だ。自分の無力さにイライラする。
「情報が欲しいな。誰か敵陣にもぐりこんで情報を探らせたい」
兄は眉間にしわを寄せて思案していた。
「器用で魔法探知もできて敵拠点から戻って来られるだけの個人戦力‥」
「じゃあ私が」
私は手を上げる。
「魔力探知はそれなりにできますし、魔法戦士を探してたたくくらいは可能です」
「くっ、大事な家族を行かせられるわけないだろう」
「それでも適任でしょう? あなたが指揮官としてここを動けない以上」
私は瞳をそらさず兄を説得する。
「分かった。だが他に数人連れて行け」
「人数が増えれば隠密行動は難しくなります。後1人で十分ですよ」
後1人、はもちろんダッシュだ。
「面倒な任務ですね」
嫌がる彼を引っぱって馬に乗せる。
「しょうがないでしょ、私たちみたいなのは戦場じゃそこまで必要とされないんだから」
いくら剣術や体術に優れていても集団戦において個人の力量は重視されない。必要なのは量だ。
私は事の深刻さの割に‥浮かれていた。
だって初めての共同作業じゃん!
「設定は戦火の混乱に乗じて駆け落ちする恋人同士でいいよねー」
「はあ‥」
私は簡素なドレスで馬を走らせた。鞍も女物で横乗りだ。
敵の出城とは若干違う方向に進む。
街道をそれなりに進んだ先の村で情報を集めた。
「戦争が始まるだなんて知らなかったわね」
宿屋や酒場ではみな寝耳に水だったことが分かる。
「急に兵隊さんが来てね、あたしたちも協力させられたのよ。今は町や近くの村からも男たちが集められていたわね」
おそらく正規兵が負傷したからその穴埋めだろう。
「そこにまぎれられないかな」
「地元の人間でないことはすぐバレますよ」
村からは男たちが一定方向に向かっているから、そちらが陣営地だ。
「ねえねえ、あなた指揮官様見た?」
村娘が話に花を咲かせている。
「見たわよ、素敵な方だったわ~」
「ね、いかにも美丈夫、って感じで憧れるわよね」
私の耳がピクリと反応する。
「見てみたいなんて思っていませんよね」
隣のダッシュに心を読まれてしまった。
「いやぁ、風貌が分かっていた方が何かと便利かなって、あはは。敵地には夜のうちに忍びこもうね、うん」
ごまかした。
駆け落ち設定の場合、一つの村に長居することはできない。
私たちは早めに宿を取り仮眠する。
日が暮れたところで男物の服に着替え、宿屋をこっそり後にした。
着替え中、ダッシュはちゃんと部屋を出てくれる。紳士だ。
「初めからその格好でいいでしょうに」
「その場合、領地から出る時敵に見つかったら不審がられる恐れがあるの」
けして駆け落ち男女ごっこしたいだけじゃないのだよ、けして。
ただ駆け落ちごっこがしたかっただけです。




