6 決着?
「あいつ新入りだよな、分かっているのか? お嬢様のこと」
「知らねえだろ、あの様子じゃあ」
「誰か教えてやれって」
観客の無駄口がうるさい。
(少しは声を押さえろ。私にまで聞こえているからな)
私が観客席に向けてニッコリ視線を送ったら、みんな目をそらして黙った。
「ふ、とうとうここまで来たな」
ドロドロドロと低い太鼓音が響く。さっきまでは軽快にたたいていたのに。
広場の中央へ兄の登場。まるで劇の悪役みたいじゃん。
剣を構え直したダッシュと向かい合った。
「では、始め!」
ダッシュの瞳が宝石のようにきらめく。魔法を発動させた彼はいつ見ても美しいな。
流れるような動きで2人の模擬剣がぶつかり、離れる。
本気の兄にダッシュはしっかり渡り合っている。嫉妬で心がモヤモヤした。
体格はかなり兄が上回るが、技巧はダッシュが上だろう。
息を飲むような打ち合いが続き、とうとう砂時計の砂が全部落ちてしまった。
「そこまで!」
2人はハアハア息を切らしながら構えを解く。両方の木剣にはヒビが入っていて壊れる寸前だった。
会場の男共が一斉に雄たけびを上げる。
「うをおお新入り、スゲーな!」
「ウォルト様と同格? ありえねえー」
「おいおい、怪物夫婦が爆誕するんじゃね?」
誰が怪物だ、誰が。
(さあどうする、お兄様?)
私が見守る先で、兄はダッシュに手をさし出した。
ダッシュが気まずそうに握手すると、兄は満面の笑みで固く手を握った。
私はニヤニヤが止まらなくなる。
兄、と言うか我が家全員は猛者が大好物なのだ。
1度刃を交えさえすれば彼が認められるのは分かり切っていた。
「ライ、お前すごいの見つけてきたんだな」
兄が私をほめる。私も調子にのってしまった。
「でしょでしょ」
「勝てなかったのですが、良いのですか?」
ダッシュはまだ分かっていない。
「ハハハ、婿殿に無理はさせられないな。今日からさっそく待遇を変えよう。訓練内容は新兵と同じで、食事も毎日一度は肉を出す。それでいいか?」
「はい。って言うか兄さまロクに肉も食べさせていなかったんですね」
「悪かった」
しょうがない許してあげるか‥
一回ボッコボコにする条件で。
「じゃあ最後は私とやりましょう。あ、兄様は素手で」
「おお、了解だ!」
エキシビションは大盛り上がりだったし、私もスッキリした。
しかしイベントが終わって帰途についている途中、ローアン様の表情は冴えなかった。
何かを思い悩んでいるっぽい。
「心配事でもありましたか?」
馬車から降りるタイミングでたずねたら、思わぬ答えが返ってくる。
「ブライトは‥いいのか? ダッシュが妹御を射止めるのは?」
ローアン様はボソッと私に聞いて来た。
しばらくは意味が分からなかったが、馬を引きながらハッとする。
そう言えば兄は一言も私が妹だと言っていない。
私を呼ぶ時は愛称のライだった。
つまりまだローアン様はウォルターの妹と私が同一人物だとは知らない。
そして以前、私はダッシュが好きだと告白もしていた。
(ってことはローアン様の中では妹に思い人を奪われるって状況になる?)
そこまで複雑じゃないのに。
「辛いんだろうな‥好きな人に気持ちを伝えられないのは‥」
令息の憂いを帯びた瞳に、心がキュッと痛む。
(なんか無駄に心配させちゃってない? いい加減種明かしをしようか。公爵夫妻の了解は必要かな)
しかしその懸念を、私はたった数日で忘れる。
事態が急展開したのだ。
種明かし? しませんよ。




