4 特訓!
「良く眠れた?」
私もダッシュと話したい。
「はい、ここでは日の出前に起こされなくて助かっています」
まだ1晩たっただけだが、昨日より彼の顔色は改善している。
「仕事はどう? 困っていない?」
「とても楽な仕事で助かっています。これでいいのか不安になるくらいですよ」
「う、まあ我が家だと力仕事ばっかりだしね」
家だって新兵は休憩時間も多めなのだけど、多分兄のことだからダッシュをこき使っていたはず。
「食事はとれてる?」
「ええ。吐くほど疲れていないので」
「家の兄がすまん。マジで」
身内の不始末に汗が出てしまった。
次の日は訓練日だ。私はダッシュを誘った。デイジー様は見学に来ている。
「1度魔法無しのあなたと戦ってみたかったの」
訓練場で私たちは木剣を構える。
身体強化を使っていないダッシュに脅威はそこまで感じない。
しかしやはり彼の技量はすさまじかった。
木剣の打ち合いなのに一切気が抜けない。
「うわ、思っていた通り! 私の訓練にちょうどいいじゃん!」
そう、魔法を使わない彼のレベルは私と伯仲していた。
切っ先をギリギリでよけ、剣をふるう。カンとはじかれるも刃の重さで手がしびれることはない。
これならいつまでも打ちあっていられる。楽しー!
スタミナは同じくらいらしい。私たちはほぼ同時に息を切らす。
「兄妹そろってさすがですね。君の家はどうなっているんですか」
息を切らしながら模擬剣を突きつけると、ダッシュはあきらめたようにつぶやいた。
訓練場にいた他の護衛は青ざめている。
(そう言えばこの家で本気を出して打ち合い練習するの初めてじゃん)
オールデン公爵家で一番強いのは私。そのせいで力量に見合った稽古はできていなかった。
(それじゃダメだ)
学生時代は騎士志望の女生徒3人を相手に圧勝してしまって基礎練しかさせてくれなかった。
それでも当時は長期休みのたび帰省できたし、実家に戻れば好きなだけ体を動かせる。
しかし働き始めたら簡単には帰れない。
(腕が鈍っていたんだ、私)
今まで気がつけなかった。力量が同等の相手と戦わなければ進歩はないに決まっている。
ダッシュを鍛えるつもりで、自分の問題点があぶり出された。
休憩の後はダッシュを仕事に戻し、訓練する仲間たちに頭を下げる。
「お願い、2人同時に相手して欲しい」
1対1では勝負にならない。同僚のプライドを傷つけるのは承知で頼みこんだ。
「ケガしても知らねえぞ」
護衛仲間のマイクとチャーリーが受け入れてくれて、私は充実した訓練を楽しんだ。
「頑張って勝つって気持ちいい~」
訓練って安全な環境で自分の限界に挑戦することだったな~と久しぶりに思い出せる。
子供時代はしょっちゅう味わっていた感覚だけど、ここ数年は忘れていたのだ。
兄は強すぎたし、それ以外は弱すぎた。
「何でここまでやって勝てねえんだ」
「僕じゃ後ろからでもかわされるなんて‥ブライト君本当に人間の女性ですか?」
相手をしてくれた2人は悔しそうだけど。
さらに翌日、ダッシュの調子は良くなっていたが、兄との賭けは思っていなかった方向に進む。
「センタリオン家から私たちに招待状が届いたんだが‥武闘試合を開催するらしい。ブライトは知っていたのか?」
「はい?」
あれ? 話が大きくなっている。
(あいつ何考えているんだ?)
武闘試合ってことは他の兵士の力量も調べたいのか?
血の気が多すぎる兵の息抜き?
兄の真意が測れないまま約束の日がやって来てしまう。




