3 ツンデレ?
「たった5日で回復しろと? お嬢様は俺を助ける気がないのですね」
ダッシュはやっと軽口をたたいてきた。
今は2人で公爵邸へ帰るため、馬上で揺られている。
「それでもやりなさい。あの人にあなたの力を見せつけないと」
私の目が節穴だなんて言わせない。彼は私にふさわしい人なのだから。
「魔道具を外してもらったのはありがたいのですが、ブライア嬢は構わないのですか?」
「え、何が」
「別に分からないならいいです。まあ今の俺ではあなたにかなわないでしょうし」
‥私もさすがに気がついた。周りには農地や林が広がるだけで誰もいない。今の私たちは馬上で2人きりだ。
しかも鞍にのっているのは私だけで、ダッシュは私の腰に腕を回して体を支えている。
ほとんどハグされているじゃないか!
「ハ、ハグくらい気にしないから」
「いえ逃亡の心配です」
(そっちかよ)
顔が赤くなる。
まるで好きなのは私だけでダッシュの方は何とも思っていないみたいだ。
「まあ気にしないのであれば、失礼しますね」
ダッシュが私に密着して体重をかけてきた。
「はうァ」
突き放したてすぐさまデレるとか反則じゃん。
あせりまくる私の耳に、彼の寝息がかかった。
「‥すぅ」
うん、まあ疲れているからだろう。
密着したのは魔力の縄で自分の体を落ちないよう固定するためらしい。
(人の心を手玉に取らないでよ)
分かっていても踊らされてしまう。これがほれた弱みか。
「本当に申し訳ありません、屋根裏でも馬小屋でもいいので貸してやってください」
私はローアン様に頭を下げまくった。
一介の護衛騎士のくせに、知り合いを5日も預かってしまったのだ。
いつもは優しいローアン様だって眉間にしわを寄せている。
「ブライトの頼みならしょうがないが、そいつは罪人だぞ」
「分かっていますが、このまま兄に使いつぶされるのは嫌なんです。ちゃんと休憩を取らせたくて。絶対公爵家のお役に立たせますから!」
私は隣の頭もつかみ下げさせる。
「ほら、あなたからも頼みなさいって」
「‥お願いします。置いてくれるだけでいいので」
「ただで置くことはできない。下働きでも手伝わせるぞ」
「十分です!」
翌日私はデイジー様の護衛に戻った。
窓の外に時々ダッシュが何かを言いつけられて走り回るのが見える。
「ブライア、何を気にしているのかしら?」
う、デイジー様に不審がられてしまった。
「えっと数日知り合いをこちらで預かってもらうことになり、その仕事が上手く言っているのか心配してしまって」
「まあブライトのお友達? どんな方なのかしら」
デイジー様の目元が急に鋭くなる。
婚約者候補だと白状させられるまで、時間はかからなかった。
「わたくしに秘密でそんな人がいるだなんて‥見に行かなくちゃ!」
好奇心でワクワクするデイジー様に付き添い、私は階下に降りる。まあ私も近くで見たかったから構わないか。
「臨時雇いのダッシュはどこでしょう?」
「ああ、ブライト様の紹介でしたな。今は厩舎を掃除していますよ」
家令にたずね厩舎に向かう。
彼はすぐ見つかった。
「どうされましたか?」
厩番と思われる男が声をかけて来る。
「臨時で入った男の働きぶりを確認しに来ました」
「ああ、あいつですね。魔法で何でもやっちまうって人気者ですよ。ずっとうちに欲しいくらいです」
評判は上々のようだ。
「どのお方?」
「干し草を運んでいます」
私が指をさすとデイジー様は優雅に近づく。
ダッシュはデイジー様にはきちんと礼を取った。
「こちらがブライアの知り合いかしら」
「はい、ダッシュと言いまして子爵家で預かっていたのですが‥」
私は兄と賭けをしたことも話す。
「そこまでブライアがしてあげるってことは、よっぽど好きなのね」
まあそれは分かってしまうだろう。私は別に否定もしない。
「う~ん、三角関係も楽しいわね」
デイジー様? もう1人はどこに?
三角関係はデイジーの妄想の中にしか存在しません。




