2 再開
次の日は一日だけ休みをもらって自領に帰った。
公爵邸とは比べ物にならないほど小ぢんまりとした我が家。
返ってくるのは久しぶりで、懐かしさに胸がいっぱいになる。
「ブライア!」
兄のウォルトが満面の笑みで迎えてくれた。
この時期は両親が王都で社交を担当し、兄が領地の経営を受け持っている。
「お久しぶりです、お兄様」
「休みの日を教えてくれたら僕が迎えに行ったのに」
「馬で領地を駆けるのも良いものよ」
私が単騎で訪れたのを心配したのだろう。
「今日はどうする? 久しぶりに剣の指導か?」
「お兄様との手合わせも楽しみですが、ダッシュにも会いたくて。彼はどうしています?」
兄の顔が一気に厳しくなった。
「あんな魔法に頼りきりの奴など放っておけ。それより良い武器が手に入った。ライも気に入ると思うぞ」
あからさまに話を替えようとしている。
「お兄様、ダッシュはどちらに?」
語気強めでたずね、国境付近で作業中の情報を手に入れる。
「では先にそちらに参ります」
「お茶くらい飲んでいけよ」
「水筒とビスケットは携帯しております。ダッシュの様子を確認したら、また参りますわ」
私は馬を替えて作業場まで進んだ。
国境は常に敵襲にさらされているので、危険な土地には城塞を築いている。
敵が侵略してきてもすぐ対応できるように。
平時も常備兵をただ遊ばせておくわけにいかない。橋や道路の整備に駆り出す。
子爵家の役割は大半が土木事業だった。
「隊長はどちらでしょうか」
「これはこれはお嬢様ではありませんか。たくま‥お美しくおなりで」
責任者は大体顔見知りだ。私の男装にも慣れている。
私はダッシュを呼び出してもらった。
「ああ、君でしたか‥」
ボロボロにやつれたダッシュに私は唖然とする。
「何があった?」
彼を観察すると、両手に魔力封じの腕輪がはまっていた。
「は? なんでこんな物が」
「おや、魔法を使って悪さをしないようにと若様からのお達しですよ」
現場監督が嘘を言っている様子はない。
「魔法に頼らず筋肉をつけさせるって方針ですが‥最近は飯を食わなくなりましてね」
それでこのありさまか。
私は怒りを抑えてダッシュを支える。
「今日は彼に護衛を頼むから、私が預かるわ」
「助かりました」
近くの農家に事情を話し、彼を休ませてもらった。
「何があったの」
「俺がここの仕事に耐えられないだけです。子爵家の普通がすごすぎて食欲もわかないんですよ。幻滅しましたか?」
そんなことはありえない。
おかみさんが作ってくれたミルク粥ならのどを通るようだ。
「お兄様に抗議します。あなたもついてきて」
馬の後ろにダッシュを乗せて子爵邸に戻る。
「やあブライア、お茶の用意は整っているよ」
私がギラリとにらみつけても、兄はどこ吹く風だ。
「ダッシュも一緒なら招待に応じます」
「ふーん。しょうがないね」
椅子と茶器が追加される。
「ねえライ、そんなズタボロ相手にする必要ないだろう?」
「お兄様、ダッシュにいきなりベテラン兵の訓練を課しましたね」
我がセンタリオン家は訓練がすさまじいことで有名だが、新兵相手にはさすがに手をぬく。体を壊さないよう最低限の気遣いはあるのだ。
「ははは、君が連れて来たのだから当たり前だろう」
確かに身内の推薦の場合、いきなり上級の腕前を期待される。
「それなら魔法を制限するのはフェアではありません」
「悪いが、うちの妹を口説くような奴にはそれで十分だ」
「口説かれたのはこっちなんですけれど‥」
ダッシュのボヤキは完全に無視された。
「お兄様、私と賭けをしませんか?」
私がただ頼んだだけでは兄は対応を変えないだろう。なら勝負事に持ちこんだ方が早い。
「条件は?」
「ダッシュは私が預かります。10日休ませたのち、お兄様と木剣で対戦してダッシュが勝ったら、新兵と同じ訓練を要求します。もちろん身体強化魔法ありですよ」
「10日は多い。5日にしろ」
「分かりましたわ」
期間は半分に削られたが、最初からそれをもくろんで多めに提案してある。
十分だろう。
ダッシュには口をはさませず、賭けは成立した。




