1 いざ行かん、公爵領へ
私は公爵家に仕えながら恋人の帰還を待っていた。
そう、今の私には待つしかできない。
『最近はいかがお過ごしでしょうか? こちらは公爵令息の婚礼が無事行われました』
私はドライフラワーになったブーケを見る。
『ローアン様は花嫁のために豪華なドレスを仕立てました。とても素敵なデザインでデイジーをうらやましく思ってしまいます』
前置きはこれくらいにして、本題を書く。
『あなたに会いたいです』
(うぎゃー本音書いちゃった。恥ずかしい。でもここが1番大切なことだし)
家族からも教わっている。狙った獲物は逃がすなと。
手紙の返事はだんだん減って行った。
新兵にはそんな余裕もないのだろうか。
領地の兄からは問題はないとの知らせが届くけれど。
(気になるわ)
しかしここから国境付近に向かうには時間がかかりすぎる。
「ブライア、どうしたの?」
憂い顔が隠せていなかったのだろう。デイジー様(もう公爵家に嫁がれたから様づけだ)に気づかれてしまった。
「領地に戻りたいってだけですよ」
「お姉様でもホームシックになるのですね」
デイジー様が図ってくれたのだろう。ローアン様が提案してくれた。
「そうかじゃあ領地に行ったらブライトは里帰りしたらどうだ」
オールデン公爵家の領地の隣が我が子爵領だ。
まだ社交シーズンは終わらないが、若夫婦は領地の見回りに行く予定。
「私たちは領民に顔を覚えてもらう必要がある」
それプラス女性嫌いが完全には克服できていない公子様の事情もある。社交から逃げたいのだ。
「しかし向こうは田舎で危険も少ない。護衛が減ったとして問題はないだろう」
確かにそれなら里帰りもできるしダッシュの様子も見られるよね。
「お願いします!」
実家まで向かうとなると荷造りもバタバタしてしまったが、トランクを馬車につめこんで出発進行!
「旅行ってワクワクしますわ」
デイジーは私を馬車に同乗させたかったようだが、ローアン様に命じられて馬車後部に立つ。
今日の私はフットマンだ。
ちゃんと半ズボンとストッキングをはいて、ふくらはぎを見せつけてのね!
「そこまでする必要はないんじゃない?」
オスカーたちは気づかってくれるけれど、一度やってみたかったの。
(私のふくらはぎがそこらへんの男に劣るはずがないのよ)
鍛えた筋肉は見せびらかしたいのが人情である。
隣の同僚が悔しそうに私の足をにらんでくるのが心地よいわー
馬車の旅は疲れるので、デイジーの体調を気づかいずつのんびり進んだ。
しかし途中の町で泊まった時、私は他の護衛と同室になってしまう。
「着替える時は言えよ、見ないでおいてやるから」
「あーそっかブライトは女だったな」
同僚には私の性別はもう知れ渡っているのだけど‥何だろう対応が雑。
少しはドキドキしやがれ。
(デイジーとの同室が1番なのに。ローアン様が嫌がるからできないなぁ)
何なんだこの縛りプレイ。
町はにぎやかだが、そこを出るとすぐ田園風景が広がる。
えんえんと刈り入れが終わった麦畑が続いた。
丘陵をいくつも越えてポプラ並木が見えてきたら、やっと公爵領だ。
公爵家のカントリーハウスは敷地が広大でビビった。
境界の木戸から屋敷を見るまでにしばらくかかるのだ。
お屋敷も王都の2倍は大きい。庭園の整備も完璧。
「いらっしゃいませ」
使用人がニコニコ出迎えてくれた。
「まあまあ坊ちゃんお帰りなさいませ」
「若奥様を歓迎いたします」
心理的な距離が近いのだろう。ローアン様もリラックスしている。
「お、ジョンも大きくなったな」
王都の使用人は独身の住みこみが多かったけれど、こちらでは家族持ちもいるらしい。
「ブライトさんの事情は手紙でうかがっています。こちらにどうぞ」
私はやっと個室をもらえた。
デイジーの部屋に直接つながる扉もある。護衛としても助かった。
フットマンは馬車の後ろで美しいふくらはぎを見せびらかすのが仕事だったとか。
だから足男って呼び名なのですね。
2章の始まりは永田えいだ様の作品が素晴らしかったので参考にしようと思いましたが‥
お手本があるからと言ってうまく行くとは限りませんね(-_-;)




