78 はまる
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1999年3月号掲載
78 はまる
今日もまたすばらしい晴天だ。雲ひとつない東の空があかね色に染まって、ぴーんと冷えた大気の中、散歩やジョギングの人影が行き過ぎる。輝かしい日の出ももうすぐだ。
もう2ヶ月近く、ほとんど雨らしい雨がない。今やろうとしている作業には、これほどありがたい条件はないのだが、正直なところ、この後の変化がこわい。9月から11月のぐずついた天気の裏返しがこの晴天だから、2月か3月には大雪か雨続きの時期が必ずくる。間に合うだろうか。
11月から、保護区の中でも最大の湿地のひとつ、竹内が原―上池の干し上げにかかった。ここは淡水性のシギ・チドリ類や沼沢地の鳥を想定したごく浅い池で、水深は最大で40㎝、夏からは水位を下げて、5~20㎝程度に保つようにしている。おかげでこの夏から秋は、例年にないほど多数の白鷺類が集まり、セイタカシギや2、3の淡水性のシギも入り、マスクラットも見られた。
さて、アシやガマの生育に適した浅い池で、水鳥が入る開水面を維持するには、何が何でも植物のコントロールをしなくてはならない。夏に皆で草刈りをしたが、これだけでは初夏に全体が湿原と化し、夏にはみごとなアシ原になっているだろう。この冬は徹底的に干し上げて、隅から隅までトラクターをかけると固く決意している。
ところが、ところが。トラクターがけ開始の1月8日、さっそく泥にはまった。土手下のマスクラットの穴からとなりの池の水がじわじわともれて、広い水たまりになっているところ。トラクターを掘りだし、穴をふさぎ、水面がやや縮まった、とほっとしていたが、いやあ、まだまだ。
観察舎スタッフの週休日は、365日続く仕事に合わせてずらしてあるので、わが大黒柱1・2号の一樹君と達ちゃんの二人がそろうのは、日・月・火の3日。トラクターがけは男衆が2人手を空けられる時、と決めており、18・19日の月・火曜は朝から稼ぎ時になった。しかし、なぜか前より水たまりが広がっている。マスクラットの穴をふさいだ分、水の逃げ道が他にできたらしい。
水が残るところはぬかるみが深く、トラクターが足をとられやすい。隣接する新浄化池は土を盛り上げて棚田にしたので、高い位置の水がわずかなすきまから低い上池側にもれる。この状態では完全な干上げは無理だ。「仕方ない。④系列の水を今すぐ止めましょう。それでも水たまりが消えなかったら……その時はまた考えるしかないね」
2系列ある新浄化池は、水栓の番号から東側を③系列、西側を④系列と呼ぶ。トラクターがけに先立つ干上げはどこかに水が残るように手順を考える。竹内が原―上池を終えてから隣接の④系列を干上げるつもりだったが、やむを得ない。
火曜の昼ごろ、作業に出た一樹君から電話が入った。「上池はやっぱり手ごわいです。いちおう歩けるので、奥まで入ろうとしたんですが、途中まででもう2回はまりました。1回は抜けて、2回目はお昼を食べてからにしようということで」
非力な私にも手伝えることがあるかも知れない。午後、雨合羽の上下に身をかため、作業用の分厚いゴム手袋をはめて出かけた。ちょうど大黒柱1・2号氏がトラクターを掘っている最中だった。
「午前の部はわりとあっさり出たんですけど、歩けるところでも、水の近くはだめですね。これが3回目かな」 ようやく抜け出したトラクターは、奥を試しに行ったところで、また、はまった。
泥を掘り、重くて泥だらけの足場板を運んできて補助輪にあてがい、まず後方へ、それがだめなら前も掘って足場板をあて、前へ、後ろへ。泥まみれできつくて、3kの極致といった作業だ。服も腕も泥んこ、顔にまで泥をつけた2人は、慣れきった様子で3k作業に取り組んでいる。疲れているだろうに、目つきも笑顔もけっこう明るい。
「ここを抜けたら地盤の固いところに置いといて、2週間くらいがまんして乾くのを待ちましょう」
幸い、当分は晴天らしい。干上げとトラクターがけが始まると、つい気があせって他のことは手につかなくなってしまうが、まあ、待つのも仕事のうちだ。じっくり構えて、作戦を考えなくては。




