四本とも動くのに、一歩も歩けない
朝、エリスは立てなかった。
四本の義肢は故障していない。右義脚は前へ進もうとし、左義脚は重心を後ろへ戻そうとする。右義手は地面を支え、左義手は存在しない工具を掴もうと指を閉じた。
すべて動く。だからこそ、一歩も歩けない。
白化共鳴が強まるたび、義肢内部の同調石は過去の命令を再生した。工房で解析した白い歯車と同じだった。壊れる直前の動作へ戻ろうとし、現在のエリスの意思と衝突している。
「統合制御を切る」
リンファが言った。
「一度に切れば倒れるわ」
「一肢ずつ止める。順番はあなたが決めなさい」
エリスは歯を食いしばった。自分の身体なのに、自分の命令が通らない。幼い頃の白い光と、切除後に初めて目覚めた寝台の感覚が喉元まで迫った。
この場面で誰も急かさなかった。
ロイドが正面へ座り、トルヴァンが背後を支える。リンファは装着部へ触れる前に許可を取り、ノアールは記録板を伏せた。
「右手から」
エリスが選んだ。
右義手を停止する。支えを失った身体が傾き、トルヴァンの腕が受け止めた。次は左脚。続いて左手。最後に、地面を蹴り続けていた右脚。
四肢が静かになると、共鳴音だけが残った。エリスは誰かに支えられなければ座ることもできない。だが矛盾した命令に引き裂かれる感覚は消えていた。
「退避する」
ロイドが言った。
エリスは反射的に「修理すれば」と返そうとした。しかし共鳴源は近づいている。今ここで解析を続けることは、自分だけでなく支えている三人も危険へ置く。
「……帰る。手動担架を使って」
選択を言葉にした。
退避中、白化した自動扉が閉じ、進路を塞いだ。義肢を動かせないエリスの代わりに、ロイドが蝶番を切り、トルヴァンが扉を持ち上げ、リンファが彼女の魔力循環を維持した。ノアールは共鳴の間隔を数え、次の波が来る前に通過できる時間を告げた。
誰か一人の天才では突破できない。だが四人の仕事が重なれば、道は開いた。
安全域へ戻った後、リンファは一肢ずつ再起動した。エリスは焦らず、指一本、膝の曲げ伸ばし一回ごとに自分の意思が通ることを確かめた。
最後に右義手が戻る。エリスは握ったり開いたりせず、まず掌を上へ向けた。
ノアールが記録板を差し出す。
「書けるか」
「書く。最初の項目は、四本同時停止を禁止。二つ目は、停止順を本人が選ぶ。三つ目は――」
「助けを受けること」
リンファの言葉に、エリスは少しだけ眉を寄せた。それでも否定せず、自分の字で追記した。
翌日の調査には、共鳴中でも使える手動器具が必要だった。そして背中を預ける相手には、長い説明をしなくても動いてもらう必要があった。




