21 プロポーズの結果
「香水ができたって本当かい!?」
「はい、大変お待たせいたしました」
数週間後、ミュゼはアシルと共に再びレナルドの下を訪れていた。
手には、彼が所望した香水を携えて。
「こちらにがご所望の香水……名付けて『獅子の心』です」
ミュゼが取り出したのは、重厚なガラスに金色の獅子の装飾が施された豪奢な香水瓶だった。
「おぉっ……! これが……!」
「はい。これはとてつもない魔法の香水です。使用すればレナルド様の魅力は何倍にも増幅し、コレットさんへの求婚も成功間違いなしです」
「そ、そんなものが本当にできたのか!?」
「はい、できました」
レナルドはごくりと息をのみ、香水瓶を受け取る。
「この後、またあの歌姫と会う約束をしているんだろう。さっさと行ってこい」
アシルの言葉に、レナルドはわかりやすく動揺した。
「えぇっ!? でもまだ心の準備が……」
「絶対に大丈夫です! なにしろものすごい香水ですから!」
「ミュゼもそう言っている。さっさと行ってこい」
「うぅ……わかった!」
レナルドは迷いを見せていたが、ミュゼとアシルに背中を押されたのが効いたのだろう。
「準備をして行ってくるよ。結果はまた報告させてくれ」
「あ、お待ちくださいレナルド様」
さっそく準備をしに行こうとするレナルドを引き留め、ミュゼはこんこんと言い聞かせた。
「よく聞いてくださいね。コレットさんにプロポーズするときは、とにかくビシッとストレートに想いを伝えるのです。気の利いた詩や口説き文句は必要ありません。とにかく、力強く想いを伝えることが大事なんです! そうしないと香水は効果を発揮しません」
「そんなことがあるのかい!?」
「えぇ、そういう香水ですので」
自信ありげに力説するミュゼの姿に、レナルドも納得したのだろう。
「わかった。……ありがとうミュゼさん、成功しても失敗しても、君が僕にしてくれたことは――」
「失敗するなんてありえません。絶対に成功します! いいですね!?」
「わ、わかった……! ありがとう!」
バタバタと走り去るレナルドの背中を見送り、ミュゼはふぅ……とため息をついた。
やれることはやった。
あとはレナルドとコレットの二人次第だ。
「あら~、レナルド様の依頼、うまくいったのね!」
「えぇ、そうみたいですね」
レナルドに香水を渡した数日後。
ミュゼはマリエット共に新聞を眺め、ほっと一息ついた。
――『ベルフォーラン伯爵令息、アルエット座の歌姫とまさかの交際0日婚!』
そんな見出しと共に、幸せそうに寄り添う男女の絵が描かれている。
どうやら彼のプロポーズはうまくいったようだ。
そのうちに、彼から直接報告も来ることだろう。
「あ、誰か来たみたいね。はーい……あら、アシル様!」
来客の対応をしに階下に降りて行ったマリエットの声が聞こえ、ミュゼは慌てて背筋を正す。
ほどなくしてやって来たアシルは、ミュゼの手元にある新聞を見てふっと笑う。
「君も知っての通り、レナルドのプロポーズはうまくいったらしい。ちょうどあいつから連絡があって、すぐにでも君に礼を言いたいそうだ。この後時間はあるか?」
「はい、大丈夫です」
婚約が決まったばかりのレナルドはいろいろと忙しいだろうに、わざわざミュゼと会う時間を作ってくれるなんて律儀なものだ。
まぁ、ちょうどよかった。
種明かしは早い方がいいのだろうから。
「ミュゼさんっ、本当にありがとう!」
出迎えてくれたレナルドは、ミュゼの手を握り何度も何度も礼を言ってくれた。
「ご婚約おめでとうございます、レナルド様。こちらこそお役に立てたのなら何よりです」
「それで、相談なんだが……」
レナルドは急に挙動不審になると、こそこそと小声でミュゼに囁いた。
「あの香水、これからも定期的に作ってくれないか? 香水の効果がなくなったらコレットに振られるんじゃないかと思うと心配で心配で……」
レナルドがそう零した途端、アシルの視線が冷たくなる。
「レナルド、お前……」
「だ、だってしょうがないじゃないか! 香水がなかったら僕なんて、僕なんて……」
「泣くな、見苦しい」
「相変わらずひどいな君は!」
言い合いを続ける二人を見て、ミュゼはくすりと笑う。
「レナルド様が望むのでしたら定期的な調香も請け負いますが……その必要はないかと思います」
「えっ!?」
「だってあれはレナルド様の魅力を何倍にも増幅させ絶対にプロポーズが成功する香水……ではございませんから」




