森林の剣 協力会のペナルティ
「あなたがたの団体のことは、我々も把握しておりました。――しかし、まさか、見知らぬ学生の団体に出しぬかれるとは、思いもよりませんでしたな」
兵頭栄作が、冷え切った低い声で話し出した。
「罰とは、何をやらせるつもりか?」
茂(偽庵)は、再び訊いた。
どうやら、兵頭家は、かなりの権力者で、命令をきいた方がよさそうだった。武は、腹が立っているようだが、このふたり――特に老婦人からは、異様な気が発せられていた。
偽庵の生きていた時代にも、この種の人間はいた。無視したり、軽んじたりしていると、あとで、とんでもなくひどい目にあった。
老婦人が、身を乗り出した。
「いま、ある土地で、霊障害が発生しておる。それを解決してほしい。……無報酬でな」
――無報酬!?
武は、耳を疑った。
冗談じゃない。霊障害を解決しろ、とはどういう意味なんだろう。無報酬でなんて、今回のことで(過去の経験もあるが)、霊(〝こだま〟)に対峙すると、命を失うほどの危険性があることがわかった。絶対に、割に合わない。
武は、茂(偽庵)の方をうかがった。茂(偽庵)は、腕を組み、老婦人をにらんでいる。
茂(偽庵)は、腕をほどき、大きく息を吐いた。
「――見返りなしで、危険なお勤めを果たせとな? 無体なことを命じる輩は、いつの世もおるんじゃのう……」
斎藤さんが、震える声で、茂(偽庵)を説得しようとした。武はともかく、偽庵がその気にならなければ、どうしようもない。
「――申し訳ない。この方たちは、ある意味、総理大臣より力のある方々なので……立腹されるのはわかりますが、慎重に……その、慎重に……」
斎藤さんが、うわずった声で、茂(偽庵)を、なだめようとする。斎藤さんにも、茂がいまは「偽庵」になっていることが、わかったらしい。
武は斎藤さんの言葉を聞いて、あわてた。
このひとたちは、日本の裏側を牛耳っているんだろうか? ひょっとして裏社会の大物?
「政治家の方々も、職業柄、霊障害を体験されることが多いらしく……この方たちは、彼らの救世主となっているのです。――兵頭家のいうことに従わない政治家は、まず、いません」
斎藤さんは、さらに恐ろしいことをいう。
武は、真っ青になった。まだ、実社会に出ていないせいもあって、兵頭家の持つ力が、どれほどのものか、見当もつかなかった。
武の頭のなかに、兵頭家のせいで、大学卒業後、就職もできず、実家も衰退して、住むところもなく、腹をすかせて、路地裏で野たれ死にしそうになっている自分の姿が浮かんだ。
「どういう障害を解決したらよいのか、話だけでも聞こう。――なっ?」
武が茂(偽庵)の肩に手をかけると、茂(偽庵)は片眉をあげ、ふり返った。武に何かいおうとして口を開けたが、武の顔をみて首をひねったあと、口を閉じ、何もいわず、また前を向いた。
「どのような、お勤めかな・・・? 引き受けるかどうかは、中身を聞いてから決めたいんじゃが」
兵頭栄作は、老婦人――かなえの方をみた。 かなえは、ゆっくりとうなずいた。
高齢のせいだろうか? 動作のすべてが、ヒトより遅い。
「瀬戸内の、ある地域で、霊があばれているのです」




