森林の剣 霊障害対策協力会
「この方たちが、今回、〝こだま憑き〟の件で、尽力してくださった方々です。宮田さんと松田さんです」
斎藤さんが、武たちを紹介してくれた。
尽力したのは、武たちだけではない。藤原さんや、岩瀬も活躍した。自分たちだけ褒められるのは、居心地が悪かった。
兵頭かなえと紹介された老婦人が、険しい眼でにらんだ。
「今回、お前たちがやったことは、お祓い師や霊媒師、修業をつんだ僧たちが行なってきたことと同じじゃ――」
武と茂は顔を見合わせた。
いったい何がいいたいんだろう。
黒い背広の男が、一歩、前に出た。
口に手を当てて、一回咳をしたあと、
「我々は、日本全国の霊や悪霊――言いかえれば、魑魅魍魎を払ったり、鎮めたりする者たちを、束ねています」
ああ、そうか。だから、霊障害対策協力会なのか。
武は、納得した気持ちでうなずいた。
「あなたたちが今回やったように、無断で霊障害をおさめるようなことをされては、困るのです」
無断でって……何をいってるんだ、このおっさん――。
鎧武者が暴れて、困っていたから、対処しただけじゃないか(半分、興味本位ではあったけれど)。感謝されても、いいくらいだ。
茂もあきれたのか、口をポカッと開けて男をみている。
「――この方たちは、古くから活動しておられる、霊を払う仕事の元締めというか、ほとんどのお祓い師が所属する団体のトップなのです」
斎藤さんが、遠慮がちに口をはさんだ。
「――つまり、面子をつぶされたということか?」
茂が、妙にしゃがれた声で問いかけた。
武は、ハッとした。この声は茂ではない。友松偽庵が、表に出てきている?
男は、目を細めた。
「――ほう、若いのに、理解が早いですね」
「鎧武者の件は、地方版とはいえ、新聞で報道された。解決すれば、名が売れたし、それなりの報酬が、役所や大学から出たかもしれん。誰かが、あなたたちに、高額の報酬で依頼をしようとしていた、いや、依頼済みだったのかな。……それを、我らのような若輩者が、横から割り込んで解決してしまった」
茂(偽庵)は、落ち着いた口調で続けた。
「専門家の我々が、素人に出しぬかれたという噂が、霊障害対策の業界内で囁かれているのです」
男は、武たちを非難する口調だった。
斎藤さんが、武と茂をかばうように前に出た。
「――彼らに、悪気はなかったのです。あなた方のことも、何も知らなかった。――ここは、経験の乏しい若人のミスということで、ご寛恕ねがえませんか?」
斎藤さんの口添えに、武は感謝した。
茂(偽庵)は、斎藤氏とこのふたりの関係が、一体どういうものなのか、考えていた。
『歴史探訪の会』が、いつ頃、結成されたのかわからないが、過去に何か別件で、この団体を頼ったことがあったのだろうか?
「お主らを、このまま放っておいては、下の者に示しがつかぬ!」
それまで見守っていた老婦人が、ついに声をあげた。
さらに続ける。
「お主らのような者たちは、何度でも同じようなことをやる! 今までも、そうゆうことが、繰り返されてきたのだ!」
男が老婦人に抑えて、と両手で押しとどめるような仕草をして、改めて口を開いた。
「あなた方には、協力会のペナルティが課されます」
「ペナルティ? 」
茂(偽庵)が、いぶかしげな声を出す。
――罰、罰則のことだよ。
小声で、武が茂(偽庵)にいうと、老婦人が嘆きの声をあげた。
「やれやれ、最近の若い者は、横文字に強いと思っとったが、意外に語彙が少ないんじゃのう……」
「そのペナルティ、すなわち罰とは、どういうものか?」
茂(偽庵)は、腹が立ちながらも、冷静に尋ねた。
武は、まだ納得ができなかった。何らかの違反があったのなら、ペナルティもわかるが、霊障害対策協力会とか、聞いたこともない団体の仕事を、偶然に奪ってしまったからといって、何で罰を受けねばならないのか? この協力会とやらの、会員でも何でもないのに。
斎藤さんの様子をみていると、このふたりの事を、かなり警戒――怖がっているようにみえる。そんなにヤバイ団体なんだろうか?
「そのペナルティ、やる必要はないんじゃないか?」
武がいうと、斎藤さんが悲し気にこたえた。
「こちらの方々に逆らうと、二度と霊障害対策を行なえないことになるんです。――日本全国、誰も来てくれません。今回の件のように、強力な霊による事件――それが〝こだま〟によるものなのか、本当の霊なのかわかりませんが――は、どこでも起こります。『歴史探訪の会』の活動で、全国の遺跡や歴史的建築物をまわって、霊障害と思われる過去の事件のことを、何度も聞きました。その際、協力会が動いて、無事で済んだということも……。正直、今回の事件を体験するまで、霊については、半信半疑でした。しかし、今回のことで、やっと理解しました。今まで、聞いたことは、本当のことだったのだと……。我々の知らないあいだに、多くの霊障害が発生し、知らないうちに、協力会に救われていたのです。そのことを、肌身で感じました。――この団体のいうことは、聞かざるをえません」




