最後の一矢
「あれがマールアの王子たちの乗った馬車か」
なんていうか派手だなって印象の馬車だ。
王族や貴族の乗る馬車なんて皆そうだけど。
「メルヒオール殿、あまり身を乗り出さないでください」
「わかってる。 俺もあの場にいたし、顔を見られてたら面倒だからね」
一年前のマリナの救出劇にはメルヒオールも参加している。
はるか上空から見ていただけだが、顔を覚えられていないとも限らない。
万が一ということもあるので見られないように気を付けながらマールアの王子たちの乗った馬車を観察していた。
「彼らは?」
「上手く誘導できています」
「そう」
短く答えて準備をする。
許可も出たことだし、更に印象付けてやらないと。
セレスタに手を出すなってね。
馬で先導していたセレスタの案内人が足を緩め隣に並ぶ。
「失礼します、殿下。 馬車にこちらに近づいて来る者がおります。
話を聞いて参りますのでしばしお待ちいただけますか?」
そう言って案内役が離れていく。
「あれは……、レグルスの守備騎士団のようですね。 何かあったのでしょうか?」
従者が窓から外を見て戸惑いを零す。
話を聞きに行った案内人が戻ってくる。
「お待たせしました。 どうやら逃走した犯罪者を追っているそうです。
殿下方に何かあったらいけませんので国境まで同行したいとのことですが、よろしいですか?」
「ああ、構わないよ。 私たちに何かあればセレスタの責任問題になるからね」
護衛は付いているが、万が一ということもある。セレスタ側が護衛を増やすのは特に不自然ではなかった。
「しかし何もこんな時に騒ぎを起こさなくともよいと思うのだが」
「元々祭りは犯罪が起こりやすいだろ。 浮かれた奴らを狙う者が増えるからな」
そこはセレスタに限らず、マールアでも他の国でも同じだ。
騎士たちの緊張も空しく、国境までは何事もなく辿り着いた。
セレスタ側の護衛はここで離れ、連れてきた護衛だけになる。
案内人ともここで別れることになる。逃走犯がいるということで警備の継続を申し出られたが、辞退した。
こちらの護衛だけで十分だろう。
ようやく案内役という名の監視と離れられる。
名残惜しむこともなく挨拶を交わし合い、セレスタを後にした。
しばらく行くと馬車の足が緩む。
何事か聞くと怪しい男たちがこちらに近づいているという。
ユースティスと顔を見合わせ心当たりがないか確認し合う。ラムゼスには心当たりなどないし、ユースティスも同様のようだった。
こちらをマールアの王族と知っていて近づいているのか?
「困ったね、我らと知っていてのことかな」
「恐らく……」
ユースティスの言葉に従者が緊張の面持ちで答える。
ラムゼスたちの乗っている馬車は絢爛で、明らかに貴人が乗っているとわかるようにしている。普通の人間はまず近づいて来ない。
あまり近づくようなら排除するかと考えていると、従者が声を落として告げる。
「殿下、どうやら彼らはマールアの間諜のようです」
「何?」
意外な名を上げられた。何故こんなところに間諜が。
セレスタに入り込ませている間諜はかなり数を減らしていた。
政策の都合でもあるし、セレスタに捕まえられたせいでもある。
「どうしましょう……」
従者の戸惑いにユースティスが話を聞くと答えた。
「とりあえず話を聞こうか。
セレスタの案内人は離れたので問題あるまい」
馬車を止め、間諜が近寄ってくるのを待つ。
数歩離れた距離で足を止めた男は全部で3人。
特に見覚えのある顔はいなかったが、男たちは皆三十代半ばくらいで間諜としてはそれなりに経験を積んでいるようだ。
従者が間諜に話を聞こうと近づいていく。
数歩の距離まで届こうとしたとき、男たちと従者の間に光が走り抜けた。
「……!」
「なんだ!」
何が起こったと窓を開ける。
確認できたのは拘束される間諜たちの姿と、遠くから聞こえる馬の足音。
やってきた騎馬は先ほど別れたレグルス守備騎士団の者。
タイミングが良すぎる登場。
まるで彼らと私たちが接触するのを待っていたように。
ほどなく騎士団の者がこちらの馬車に近づいて来た。
「驚かせて申し訳ありません。
彼らは私たちの追っていた逃走犯です。 マールアの方々の馬車を止めて何をするつもりだったのでしょうか? 目撃情報を追いかけてきて正解でした」
騎士が驚かせたことを詫びる。
「我らの不手際で危ない思いをさせてしまい、申し訳ございません。
しかし、何故馬車を止めていらしたのですか?」
――白々しい、そう思った。
彼らの素性を知っているのかと聞かれたら知らぬと答える以外ない。
セレスタの騎士もそれをわかっていて問いかけてくる。
恐らく最初の段階から仕組まれていた。
逃走犯がいると話しておいたのもこの状況を作り出すためだろう。
逃げ出した犯罪者がいると聞いていながら何故不用意に男たちに近づいたのかと、視線が問うていた。




