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双翼の魔女は異世界で…!?  作者: 桧山 紗綺
最終章

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偶然と必然

 疑いの眼差しを向けていた騎士だったが、怪しんだところでそれを口に出せるわけもなく、すぐに話を切り上げた。

「ともあれ皆様がご無事で良かったです」

 表情を改めて騎士が礼を取る。

「いや、こちらこそすまない。 不用意なことをした」

 逃走犯だとは気がつかなかったと答える。実際逃走犯だとは思わなかった。

「彼らは何を?」

 間諜がセレスタで捕らえられていることは驚かない。

 その任務内容から考えたら当然のことだ。

 失敗すれば捕まることもある。

 しかし様子を見る限りでは間諜として捕らえらたのではないように見えた。

 普通は間諜を逃がすことなんて有り得ない。

 セレスタならば魔道具を付けて逃走を防止することもできるはず。逃げられたことに疑問が残る。

「彼らですか? 誘拐です。

 理由は不明ですが技術者を攫い隠れていたことところを捕縛しました」

「誘拐? それは穏やかじゃないね」

 表情は変えなかったが内心は穏やかではなかった。

 魔法技術の獲得はマールアとして必要だった。しかし素直に学ぶことは矜持にうるさい者たちが許さない。

 手に入れた魔道具の解析や分解では追いつかない技術を求めて誘拐に至ったことは容易に想像が付く。

「しかも理由も不明とは」

「ええ、本人たちは技術者に魔道具を作らせ売りさばくつもりだったと言っておりますが、それもどこまで本当かわかりません。

 そのようなことで犯罪を働くくらいなら普通に雇って給金を払った方が良いですから」

 普通に売られている物なら……、という含みを持たせるような間を持って騎士が話を止める。

 間諜たちに掛けられた疑いは思ったより重いらしい。

 レグルスの騎士は口には出さなかったが、彼らが犯罪に使えるような品物を作らせるつもりだったのではないかと疑っているとも取れた。

 なるほど、犯罪組織に所属していると仮定したらその疑いを持つのも無理はない。

 あながち間違ってもいない予想だった。

 騎士団に引っ立てられて行く間諜たちは諦めた様子で大人しく従う。

 残念だが助けることはできない。彼らもそれはわかっていてこちらに視線を向けず立ち去っていった。

 間諜たちを見ていた騎士がユースティスに向き直る。

本当に(・・・)捕えられて良かった(・・・・・・・・・)。 これもセレスタに双翼あればこそのことです」

 強調された言葉の意味がわからず騎士を見る。

 捕えられて良かった、それはわかるが敢えて強調する理由を計る。続けられた内容に瞠目した。

「双翼? 彼らを捕えたのは双翼だったのですか?」

 こんなところで何故、と声にならぬ声で呟く。

「捕えたのは我らですが、双翼のお二人に手を貸していただく幸運に恵まれ早期発見と捕縛が可能になったのです。

 我々は運が良い」

 重ねられた言葉に冷や汗が伝った。

 双翼の二人がマールアの間諜を捕えた……?

 それはつまり、その場にセレスタの王太子もいたということだ。

「それは偶然……?」

 まさか間諜の動きに気が付いていたわけではあるまい。

 いくらなんでも出来過ぎだ。

「ええ、偶然。 視察にいらしていたようで」

 誰が、とは明言しなかったがその言葉の前に入る人物は一人だけ。

 流石のユースティスも顔色を変える。思い当ったラムゼスも表情を変えている。

「我々が捕えたのは彼らのみですが、仲間がいないとも限らないのでお気をつけてお帰りください」

 微笑んで伝えられた台詞は全て知っていると示すもの。

 セレスタの隠された伝言に圧倒された。

「ああ、忠告ありがとう。 十分に周りを見て帰ることにするよ」

 どうにか言葉を絞り出して返す。

 礼を取り馬車を見送る騎士たちに特別な感情の色は見えない。

 マールアをやり込めたといった優越感すら感じ取れなかった。

 顔色の悪い従者を促し馬車を出す。

 国境を離れ、騎士たちの姿も見えなくなったところで笑いが込み上げてきた。

「ふっ、はっはっは!」

「ユースティス?」

 突然笑い出した私にラムゼスが訝しげな顔を向けてくる。

「これが笑わずにいられるか?

 全て知っていて手札を隠していたのだぞ」

 いつでもマールアを追及することができたということだ。

「それで何故笑えるんだ、こちらの立場が弱くなったということだろう」

「頼もしいじゃないか」

 笑いの残る声をラムゼスの言葉に重ねる。

 マールアのちょっかいに控えめな抗議しかしてこないセレスタの弱腰に侮っていた。

 しかしセレスタは存外強かな面も持ち合わせていたようだ。

 隠した牙で油断しきったマールアの肩を切り裂くくらいに。

 しかも致命傷を負わせるのではなく、浅い傷を付け本来ならこれでは済まないと警告するに留めた。

 それもセレスタの余裕があってのことだろう。

 おもしろい。

「対等に友好を結ぶならそのくらいの方が信用できる。

 歩み寄るとしても譲れないものをはっきりと示してくれた方が後々楽だ。

 反対や不満を口に出さずに抱え込んでいる方が危険が大きい」

 マールアに逆らえない弱小国ならそれでもかまわないが、セレスタともなればそうもいかない。

 反発を溜め込み突然関係が悪化するよりも、お互いに主張を明確にして手を取れるところのみ組んだ方が安心だ。

 密やかな宣言はマールアの意識を変えるだろう。

 間諜たちのことは知らずとも結婚式で見せた魔術、そしてユースティスと王太子の交わした会話で関係の変化に気づく。

 気づかぬ者たちは変わらずセレスタを下に見、無理を通そうとするかもしれないが、手痛い反撃を受けて消えていくことになる。

「これからが楽しみだ」

 変わっていく、セレスタもマールアも。

 未来を作っていくのは難しいが、やりがいもある。

 ラムゼスはまだ不満がありそうな顔をしていたが、ユースティスは爽快な気持ちだった。




 立ち去る王子たちを見て、メルヒオールは拳を握る。

「任務かんりょーっと」

 セレスタの思いは無事伝わったようだ。

 前にマリナたちが捕まえた間諜を一度逃がし、再度捕えるという手間をかけた甲斐があった。

 馬車の中の会話を聞いた限りでは十分に意図は伝わっている。

 これでバカなことを考える奴が減るだろう。

 マールアの脅威が遠ざかるのは良いことだ。

 任された任務を終え、レグルスの騎士たちに挨拶をして王都に戻る。

 しかしよくこんなところまで来てマールアの間諜と遭遇したなと思う。

 偶然か必然か、巻き込まれ体質の双翼に呆れる。

 そのおかげでこうも効果的にマールアを牽制できたわけだけど。

 何が幸いするかわからないな、と笑う。

 戻ったら笑ってやろう。

 知らぬ間にあれこれ巻き込まれているマリナに浮かぶのは同情よりもおかしさだった。

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