第93話 芽を待つ時間
新しい種をまいてから数日が過ぎた。
リオは朝になると、必ずその区画を見に行った。
土の表面に変化がないか、乾きすぎていないか、周りに余計な草が生えていないかを確認する。
ただし、種をまいた場所を掘り返すことはしなかった。
「まだ何も出ていないね」
エマが畑を覗き込んだ。
「うん。袋に書いてあった目安の日数には、まだ少しあるよ」
「早く芽が出るといいね」
トーマは土の表面をじっと見つめた。
「何もないように見えるけど、土の中では変わっているのかな?」
「そうかもしれないね。でも、見えないから、今は分からないよ」
リオは記録帳を開いた。
今日の天気と、土の表面の様子を書き込む。
前日とほとんど変わらない日もある。それでも、何も変わっていないという記録は残せる。
昼前、ガイルが畑へやってきた。
「毎日見ているな」
「うん。芽が出るまで、土の様子を確認しているんだ」
「いいことだ。ただ、気にしすぎて何度も触らないようにな」
「分かっているよ」
ガイルは新しい区画を確認し、水やりが必要かどうかを判断した。
リオはその様子を見ながら、必要なときにだけ手を入れることを覚えていった。
その日の午後、リナがリオのところへやってきた。
「お兄ちゃん、まだ芽が出ないの?」
「うん。もう少し待つんだよ」
「土の中に隠れているの?」
「そうだね。今は見えないけど、種をまいた場所にあるよ」
リナはしゃがみ込み、土を見つめた。
「早く出てこないかな」
「僕もそう思うよ」
リオは笑った。
リナは小さな指で土を触ろうとしたが、リオが優しく止めた。
「ここは、芽が出るまでそっとしておこうね」
「分かった」
リナは頷き、少し離れた場所から眺めることにした。
数日後、朝の確認をしていたリオは、土の表面に小さな変化を見つけた。
「あれ?」
土の一部が、ほんの少し盛り上がっているように見える。
リオは近づきすぎないようにして、記録帳を開いた。
まだ芽なのかどうかは分からない。土の粒が動いただけかもしれない。
しかし、昨日とは違うように見えた。
「父さんに見てもらおう」
ガイルを呼びに行くと、父はすぐに畑へ来てくれた。
「ここか?」
「うん。少し盛り上がっているように見えるんだ」
ガイルはしゃがみ込み、周囲を確認した。
「芽が出始めているのかもしれないな。もう少し様子を見よう」
リオの胸が少し弾んだ。
まだ確かなことは言えないが、土の中から何かが出てこようとしているのかもしれない。
その日は、いつもより何度も畑を見に行きたくなった。
それでも、リオは我慢した。
芽が出るまでの時間も、育てる時間の一部なのだ。
夕方、記録帳にはこう書いた。
『土の表面に小さな盛り上がりを見つけた。芽かどうかはまだ分からない。父に確認してもらい、もう少し様子を見る』
明日の朝、どんな姿になっているだろう。
リオは楽しみを胸に、家へ戻った。




