第92話 種をまく日
翌朝、リオはいつもより早く目を覚ました。
今日は、新しい種をまく日だった。
朝食を終えると、ガイルと一緒に畑へ向かった。昨日までの雨で濡れていた土は、少しずつ落ち着いている。
「今日は、ここを使おう」
ガイルが示したのは、畑の端にある小さな区画だった。
以前から使っていた場所の一部で、周りには作物がない。新しい種を少しだけ試すには、ちょうどよい広さだった。
「ここに植えるんだね」
「そうだ。ただし、種をまく前に土の状態を確認する。水分が多すぎないか、表面が固くなっていないかを見るんだ」
リオは父の説明を聞きながら、土を確認した。
触った感じは、昨日よりも落ち着いている。ガイルは道具を使って表面を整え、種をまく場所を決めた。
「種をまく間隔は、袋の説明を参考にする。ただ、実際の畑の広さも考えて調整するぞ」
「うん」
リオは種を一つずつ手に取った。
小さな種を落とさないように、慎重に作業を進める。ガイルが隣で見守り、必要なところを教えてくれた。
すべての種をまき終えると、リオは土を整えた。
「これで終わり?」
「今日はここまでだ。あとは水やりや、芽が出るまでの様子を確認していく」
「すぐに芽は出ないんだよね」
「そうだな。種によって時間も違う。毎日掘り返して確認するようなことはしないぞ」
リオは笑った。
以前の自分なら、種の中がどうなっているのか気になって、土を掘ってしまったかもしれない。
今は、待つことも大切だと分かっている。
作業を終えると、リオは記録帳を開いた。
日付、種の名前、植えた場所、作業を手伝った人。最後に、種の袋に書かれていた説明も簡単にまとめた。
昼前、エマたちがやってきた。
「もう植えたの?」
「うん。父さんと一緒に、少しだけね」
「どんな野菜になるのか楽しみだね」
エマは植えた場所を眺めた。
まだ土の表面には何も見えない。
「芽が出るまで、どのくらいかかるんだろう?」
「袋には目安が書いてあったけど、実際には様子を見ないと分からないって父さんが言っていたよ」
「じゃあ、毎日見に来よう」
トーマが言う。
「見に来るのはいいけど、土を掘らないようにしないとね」
カイルが笑った。
四人は、種をまいた場所を地図に記した。
新しい種を植えた区画には、今まで使っていた畑とは違う印をつけた。これなら、あとから見返しても分かりやすい。
午後、リオは父の手伝いで別の畑の作業をした。
新しい種を植えたからといって、それだけに気を取られるわけにはいかない。今育っている野菜にも、いつもどおり世話が必要だった。
夕方、リオは新しい区画をもう一度見た。
土の表面は、朝とほとんど変わっていない。
それでも、ここには種がまかれている。
これから少しずつ変化していくのだろう。
リオは記録帳に、『種をまいた。芽が出るまで、土を掘らずに様子を見る』と書き加えた。
明日も、明後日も、同じ場所を確認する。
その日々が、また新しい記録になっていく。




