第89話 雨の日の過ごし方
朝、リオが目を覚ますと、窓の外から雨音が聞こえてきた。
昨日の夜から降り始めた雨は、朝になっても止む様子がない。屋根を叩く音が続き、庭の土には水がたまっていた。
「今日は畑に行けないね」
リオが台所へ行くと、ミーナが窓の外を見ていた。
「雨が強い間は、無理に出なくていいわ。今日は家の中でできることをしましょう」
「記録帳を整理してもいい?」
「もちろん。せっかくだから、前の記録も読み返してみたら?」
リオは頷き、部屋から記録帳を持ってきた。
四つの畑の記録、収穫した野菜の記録、種の整理、道具の手入れ。ページは少しずつ増えていた。
最初のころの絵を見返すと、芽の形も今とは違っている。字も、以前より少し読みやすくなっていた。
「ずいぶん増えたね」
ミーナが隣から覗き込む。
「うん。最初は、こんなに書くと思っていなかったよ」
「続けているから、増えていくのね」
リオは、記録の中で日付が抜けているところを探した。
覚えているものは父に確認し、分からないものは空欄のままにする。以前の記録を無理に埋めることはしなかった。
昼前、雨が少し弱くなった。
しかし、外はまだぬかるんでいる。ガイルは畑の様子を遠くから確認しただけで、作業は行わなかった。
「雨の日には、何もできないの?」
リオが尋ねると、ガイルは首を振った。
「外でできる作業は限られるが、家の中でできることもある。種の整理や道具の確認、これまでの記録の見直しだな」
「記録を見直すのも仕事なの?」
「次に何をするか考えるためには、前に何をしたか知っておく必要がある。そういう意味では、大切な時間だ」
リオは頷いた。
午後になると、ミーナがお菓子を作ることになった。
リオは材料を並べ、必要なものを量る手伝いをした。リナも近くで見ており、母に頼まれて木の匙を運んでいた。
「今日は雨だから、お菓子の日だね」
リナが嬉しそうに言った。
「いつも雨の日に作るわけじゃないわよ」
ミーナは笑いながら答えた。
お菓子が焼き上がるまで、リオは記録帳を整理した。
畑の記録と料理の記録を分け、あとから探しやすいように目印をつける。紙の端に小さな色の印をつける方法は、ミーナが教えてくれた。
夕方には、雨がほとんど止んでいた。
リオは窓から畑を眺めた。土は濡れており、ところどころに水たまりができている。
明日は、足元に気をつけながら様子を見に行こう。
その前に、今日の雨のことを記録しておく。
『朝から雨。畑には行かず、記録帳を整理した。雨が止んだあとも土が濡れているため、作業は急がない』
書き終えたリオは、焼き上がったお菓子を一つ手に取った。
雨の日にも、できることはある。
畑に出られなくても、農作業について考える時間は作れるのだと知った一日だった。




