第87話 村の人から聞くこと
ある日の午後、ガイルは村の年配の農家を訪ねることになった。
以前から使っている道具について、少し相談したいことがあるらしい。
リオはその話を聞き、父について行きたいと頼んだ。
「農家の人の話を聞いてみたいんだ」
「それなら、一緒に来るか。ただし、話の邪魔をしないようにな」
「分かった」
二人は村の道を歩き、少し離れた場所にある家へ向かった。
家の前には、小さな畑が広がっている。畑の周りには、いくつかの道具が置かれていた。
迎えてくれたのは、ガイルより年上の農家、ベルトだった。
「おお、ガイル。今日はどうした?」
「この前話していた道具のことで、少し聞きたいことがあってな」
「そうか。上がっていけ」
ベルトはリオにも気づき、優しく声をかけた。
「坊主も一緒か?」
「はい。リオです」
「そうか。畑に興味があるのか?」
「はい。いろいろなことを記録しているんです」
リオは記録帳を見せた。
ベルトは興味深そうにページをめくった。
「これはよく書いているな。土や葉のことまで見ているのか」
「まだ分からないことばかりです」
「それでいい。畑のことは、長くやっていても分からないことが出てくるものだ」
ベルトは笑いながら、畑の端に置いてあった道具を持ち上げた。
「この道具は、昔から使っているものだ。今のものとは少し形が違うだろう?」
リオは道具を眺めた。
持ち手の形や刃の幅が、家にあるものと少し違っている。
「どうして形が違うんですか?」
「使う場所や、作業の仕方が違うからだな。昔はこの形のほうが使いやすかった。今は別のものを使う人も増えたが、俺はこれが手に馴染んでいる」
「同じ作業でも、使う道具が違うんですね」
「そういうことだ」
ベルトは道具を戻し、今度は畑を案内してくれた。
そこには、いくつかの野菜が植えられていた。リオが知らないものもあれば、家でも育てているものもある。
「これは、どうしてここに植えているんですか?」
「この場所は、家の近くで水を運びやすいからな。手をかけることが多いものを植えている」
「場所によって、育てるものを変えているんですね」
「畑の広さや家からの距離も考える。全部を同じように扱うのは難しいからな」
リオは、ベルトの話を記録帳に書いた。
ただし、ベルトの畑と自分たちの畑では条件が違う。聞いたことをそのまま真似するのではなく、参考にすることが大切だと思った。
帰り道、リオは父に尋ねた。
「村の人たちは、それぞれ違うやり方をしているんだね」
「そうだな。家族の人数や畑の広さ、育てているものも違う。長く続けてきた方法もあるし、新しく試している人もいる」
「どれが一番いいの?」
「その家に合っているものが、一番続けやすいんじゃないか。誰かのやり方が、そのまま自分たちに合うとは限らないからな」
リオは頷いた。
いろいろな人の話を聞くことは大切だ。
けれど、聞いたことを全部取り入れる必要はない。自分たちの畑に合うかどうかを考えなければならない。
家に戻ると、リオは記録帳にベルトの話をまとめた。
『村のベルトさんは、畑の場所や作業に合わせて道具や野菜を選んでいた。ほかの家のやり方は参考になるが、自分たちの畑に合うか考える』
書き終えたリオは、窓の外を眺めた。
村には、まだ知らないことがたくさんある。
これからも、父や母、兄たちだけでなく、村の人々からもいろいろなことを教えてもらいたいと思った。




