第85話 市場の話をもう一度
ある日、ガイルが市場へ出かける準備をしていた。
荷車には、収穫した野菜や道具が積まれている。今回は売りに行くだけでなく、必要な道具や生活用品も買ってくる予定だという。
「父さん、今日も市場へ行くの?」
「ああ。帰りは少し遅くなるかもしれない」
「何か新しい種もあるかな?」
「見てくるつもりだ。欲しいものがあるなら、先に言っておきなさい」
リオは少し考えた。
以前、市場から持ち帰った種を見せてもらったことがある。知らない野菜の種もあり、袋に書かれた名前を記録した。
「僕は種の袋を見てみたいな。あと、畑で使う道具も見てみたい」
「分かった。見つけたら持ち帰ろう」
ガイルが出かけたあと、リオはエマたちと市場の話をした。
市場は村から少し離れた町にあり、いろいろな品物が集まる場所だ。リオはまだ何度も行ったことがあるわけではないが、父から聞いた話を覚えていた。
「市場には、野菜以外にもたくさんのものがあるんだよね」
エマが言った。
「布や道具、食べ物もあるって聞いたよ」
リオが答える。
「僕は荷車を見てみたいな。町の人は、どんな荷車を使っているんだろう」
トーマは荷車に興味があるらしい。
「僕は本を見てみたい。畑のことが書いてある本があればいいな」
カイルはそう言って、少し照れたように笑った。
四人は、市場で見てみたいものを紙に書き出した。
ただ、買ってもらうことを前提にするのではなく、どんなものがあるのか知りたいという話だった。
夕方、ガイルが帰ってきた。
荷車には、家で使う品物のほか、小さな袋がいくつか積まれていた。
「リオ、頼まれていた種の袋だ」
「ありがとう!」
リオは袋を受け取り、文字を確認した。
見たことのない名前もある。以前見せてもらったものと似ているが、少し違うものもあった。
「市場には、ほかにもたくさんあった?」
「ああ。種を売る店にもいくつか種類があった。育てる場所や時期を説明してくれる人もいたぞ」
「どんな人が買いに来ていたの?」
「町の近くで畑をしている人もいれば、遠くの村から来た人もいる。育てているものも、それぞれ違うな」
リオは興味深そうに聞いていた。
「同じ野菜でも、村によって育て方が違うの?」
「土地や気候が違えば、やり方も変わることがある。だから、他の人の話を聞くのは勉強になる」
ガイルは、買ってきた種の袋を作業台に並べた。
リオは袋に書かれた名前を記録帳へ写した。分からない言葉は、父に読み方を教えてもらう。
「これは、今すぐ植えるものなの?」
「まだ決めていない。袋に書いてある時期や育て方を確認してからだな」
「分かった」
その夜、リオは市場の話を家族と一緒に聞いた。
アルドは道具の話に興味を持ち、ノアは町で見かけた荷車のことを尋ねた。ミーナは布や調理道具の話を聞いていた。
市場は、ただ品物を買う場所ではない。
いろいろな土地の人が集まり、それぞれの暮らしや仕事について話す場所でもある。
リオは、いつか自分も市場へ行き、種を売る人や農家の人と話してみたいと思った。
まだ知らない野菜や道具が、町にはたくさんあるのだろう。
そのことを考えると、次の市場の日が待ち遠しくなった。




