第79話 収穫を待つ時間
朝、リオは四つの畑を順番に回りながら、野菜の様子を確かめていた。
以前よりも葉は増え、背丈が伸びたものもある。まだ小さなものもあれば、収穫できる日が近づいているものもあった。
リオは記録帳を開き、それぞれの畑のページを見比べた。
最初に描いたころの絵と比べると、ずいぶん大きくなったことが分かる。
「もうすぐ食べられるのかな」
思わず声に出すと、後ろからガイルの声がした。
「何を見ているんだ?」
「前に描いた絵と比べていたんだ。ずいぶん大きくなったから、そろそろ収穫できるのかなって」
ガイルは畑を眺め、野菜の様子を確かめた。
「育ってきてはいるな。ただ、収穫できるかどうかは、野菜の種類や状態によって違う。大きさだけで決めるものでもないぞ」
「葉の色や形も見るの?」
「そうだな。普段の様子を知っていれば、変化にも気づきやすい。ただし、どの野菜も同じ基準で考えられるわけじゃない」
リオは頷いた。
収穫できる日が待ち遠しいのは本当だったが、早く食べたいからといって、まだ育っている途中の野菜を取ってしまうわけにはいかない。
「じゃあ、父さんに見てもらいながら決めるよ」
「それがいい」
リオは記録帳に、今日の野菜の様子を書いた。
その日の昼、エマたちも畑へやってきた。
「ねえ、収穫できる野菜はある?」
トーマが尋ねる。
「父さんに聞いたら、まだ様子を見たほうがいいものもあるって」
「早く食べてみたいなあ」
カイルが畑を見渡した。
「自分たちで育てた野菜って、いつもの野菜よりおいしく感じそうだよね」
「それは分かる気がする」
エマが笑った。
四人は、それぞれの畑で育てている野菜を確認した。
葉の形や背丈、土の状態を見て、記録帳に書き足していく。
ただ、野菜の成長は一日で大きく変わるものばかりではない。昨日と今日を比べても、ほとんど違いが分からないものもあった。
「今日は、昨日とあまり変わっていないね」
エマが言った。
「でも、最初のころと比べたら、ずいぶん大きいよ」
リオは最初に描いた絵を見せた。
小さな芽しかなかったころの絵と、今の野菜の姿を比べると、違いははっきりしている。
「本当だ。こんなに小さかったんだね」
トーマは目を丸くした。
「毎日見ていると、少しずつ変わるから、あまり気づかないのかもしれないな」
カイルの言葉に、リオも頷いた。
育つのを待つ時間は、何もしていない時間ではない。
水が必要かどうかを確かめ、葉の状態を見て、土の様子を確認する。必要な世話をしながら、変化を待つ。
それも、野菜を育てるための大切な時間だった。
午後、リオは母のミーナと一緒に、収穫した野菜を使って料理をした。
今日使ったのは、家の畑で採れた野菜だった。ミーナが洗い方や切り方を教えてくれたので、リオはできる範囲で手伝った。
「畑にあるときは、もっと大きく見えたんだけどな」
切り分けた野菜を見ながら、リオが言った。
「土の中にある部分や、葉に隠れている部分もあるからね。収穫して初めて分かることもあるのよ」
「収穫したら、また記録しておこうかな」
「いいと思うわ。どの畑で採れたものなのかも、忘れないようにね」
リオは頷いた。
畑で育っているときの記録と、収穫したときの記録。さらに、料理に使ったときの記録。
全部を細かく書くのは大変そうだが、分かる範囲で残しておけば、あとから見返すことができる。
夕方、四人はもう一度集まった。
「収穫したら、みんなで食べようね」
エマが言った。
「うん。できれば、四つの畑で採れたものを並べてみたいな」
リオはそう答えた。
「でも、全部が同じ日に収穫できるとは限らないぞ」
トーマが指摘する。
「そうだね。採れたものから少しずつ食べればいいんじゃない?」
カイルの提案に、みんなが賛成した。
収穫の時期は、それぞれ違うかもしれない。
それでも、育てた野菜をみんなで味わうという楽しみは変わらなかった。
家へ戻ると、リオは記録帳に今日のことを書き込んだ。
『野菜は少しずつ育つ。毎日の変化は小さくても、最初の絵と比べると違いが分かる。収穫できる時期は、野菜の種類や状態を見て決める』
書き終えたリオは、窓の外を眺めた。
畑には、まだ育っている途中の野菜がある。
明日もきっと、見た目には大きな変化がないかもしれない。
けれど、その小さな変化を確かめながら待つことも、楽しみの一つになっていた。




