↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/84

第78話 種をまく前の準備

 朝食のあと、ガイルは納屋から小さな袋をいくつか持ってきた。


 袋には、種が入っているものもあれば、空になっているものもある。いくつかには、名前や日付が書かれた札がついていた。


「リオ、今日は種の整理を手伝ってくれるか?」


「いいの?」


「もちろんだ。ただし、袋を開ける前に、札を確認すること。中身が分からないものは、勝手に混ぜないようにな」


 リオは背筋を伸ばした。


 以前、父から種の保管について教えてもらったことがある。名前や日付を書いておけば、あとから見返したときに分かりやすい。


 今日は、その整理を実際に手伝うことになった。


 納屋の作業台には、種の袋が並べられていた。ガイルは、それぞれの袋を確認しながら、使う予定のものと、保管しておくものに分けていった。


 リオも同じように札を見て、名前を読み上げた。


「これは、豆の種だね」


「そうだ。袋に書いてある名前と、中に入っているものを確認してから、決められた場所に置くんだ」


「こっちは、名前が書いていないよ」


 リオが手にした袋には、小さな種が残っていた。しかし、札はついていない。


 ガイルは袋を受け取り、中身を確かめた。


「これは、前に使い切れなかったものだろうな。ただ、名前が分からない以上、今は何の種か決めつけないほうがいい」


「見た目で分からないの?」


「似た種もあるからな。覚えているつもりでも、間違えることはある」


 リオは、袋を元の場所に戻した。


 名前が分からないものは、分からないものとして扱う。前にも教わったことだが、実際に目の前にあると、何の種なのか知りたくなってしまう。


「分からない種は、どうするの?」


「別にしておいて、分かる人がいないか確認する。使う予定がなければ、無理に植えなくてもいい」


「そっか」


 リオは記録帳を開き、種の整理について書き留めた。


 その後、袋の札を新しくする作業を手伝った。


 名前が分かるものは、種の名前と日付を書き直す。古い札が読みにくくなっているものは、ガイルに確認してから新しい札に付け替えた。


 リオは字を間違えないよう、ゆっくりと書いた。


「種の名前だけじゃなくて、いつ保管したかも書くんだね」


「そうだ。いつのものか分からなくなると、あとで困ることがあるからな」


「じゃあ、植えた日も書いておくといいのかな?」


「植えた日を記録するのはいいことだ。保管した日と、実際に植えた日は別だからな」


 リオは頷き、記録帳に二つの欄を作った。


 昼前になると、エマが遊びに来た。


「何をしているの?」


「種の整理を手伝っているんだ。袋に名前や日付を書いているよ」


 リオが説明すると、エマは作業台の上を覗き込んだ。


「こんなにたくさんあるんだね」


「全部を一度に植えるわけじゃないんだって。季節や畑の状態を考えて使うんだよ」


「じゃあ、種を買ったら、すぐ植えればいいわけじゃないんだね」


「うん。父さんに教えてもらったんだ」


 エマは、自分の家でも種を整理するときに札をつけてみようと言った。


 リオは嬉しくなったが、すぐに付け加えた。


「でも、名前が分からない種は、無理に名前を書かないほうがいいよ。父さんがそう言っていたんだ」


「分かった。分からないものは、分からないって書いておけばいいんだね」


 午後は、種を保管する場所の掃除をした。


 棚の上にたまったほこりを払い、袋を並べ直す。重い箱はリオ一人では運ばず、父に手伝ってもらった。


 片づけが終わるころには、袋がずいぶん見やすくなっていた。


 リオは棚の前に立ち、札を一つずつ確かめた。


 どこに何があるのか、以前より分かりやすい。


 けれど、これで全部が分かったわけではない。名前のない袋は、まだ別の場所に置かれている。


「父さん、これからも種を使ったら、記録を続けるの?」


「そうだな。使ったことを記録しておけば、次に同じ種を扱うときに役立つからな」


「じゃあ、僕の畑でも、植えた日を書いておくよ」


「それがいい」


 夕方、リオは四つの畑の記録帳を開き、種をまいた日付が抜けているところを探した。


 いくつかは書いてあったが、全部が揃っているわけではなかった。


 覚えているものは、父に確認して書き足す。分からないものは、空欄のままにしておくことにした。


 記録を整える作業は、野菜を育てることほど目立たない。


 それでも、あとから困らないようにするためには、大切なことだった。


 リオは記録帳を閉じ、棚に並んだ種の袋をもう一度眺めた。


 いつか自分が種をまくときにも、今日教わったことを忘れないようにしよう。


 そんなことを考えながら、家族の夕食を知らせる声に返事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。