第77話 野菜の名前を確かめる
ある日の午後、ミーナが台所で野菜を並べていると、リオはその中に見慣れない形のものがあることに気づいた。
丸みのある葉が何枚も重なり、中心に向かって集まっている。普段から食べている野菜の一つだが、畑で育っている姿とは少し違って見えた。
「母さん、これ、畑ではどんなふうに育つの?」
「これは、外側の葉が少しずつ広がっていくのよ。収穫したあとは、こうして葉を整えて使うことが多いわね」
「畑では、外側の葉も残しておくの?」
「育てている間は、必要な葉まで取ってしまわないように気をつけるの。傷んだ葉を取り除くことはあるけれど、どの葉を残すかは、野菜の種類や状態によって違うのよ」
リオは、なるほどと思った。
畑にある野菜は、いつも同じ形をしているわけではない。育っている途中の姿と、収穫したあとの姿では、見た目も変わる。
「今度、畑で見せてほしいな」
「いいわよ。お父さんにも聞いてみましょうね」
翌日、リオはガイルと一緒に畑を回ることになった。
まず、朝畑で育てている野菜を確認した。小さな葉が何枚も重なっているものもあれば、一本ずつ葉を伸ばしているものもある。
リオは、見た目だけで野菜の名前を判断することが難しいと感じていた。
「父さん、この葉は何の野菜?」
「それは、今ここで育てているものだな。名前は前にも教えたと思うが、覚えているか?」
「ええと……」
リオは記録帳を開き、以前に書いた名前を探した。
似たような葉の絵がいくつか並んでいる。どれも自分で描いたものなのに、細かな違いが分かりにくい。
「これかな?」
ガイルは記録帳を覗き込んだ。
「近いが、これは別のものだ。葉の形だけで決めると、間違えることもあるぞ。種をまいたときの記録や、植えた場所も一緒に見てみなさい」
リオは記録帳をもう一度確認した。
この畑には、何を植えたのだったか。種をまいた日付は書いてあるが、種の名前を記したページが少し離れた場所にあった。
「分かった。植えたときの記録も一緒に見ればいいんだね」
「そうだ。葉の形は手がかりになるが、それだけで決めつけないことだな」
リオは、記録帳に小さな印をつけた。
野菜の名前を調べるときは、葉の形だけでなく、種の記録や植えた場所も確認する。
それから、ガイルは収穫した野菜を見せてくれた。
畑ではまだ葉が広がっている途中のものも、収穫すると形がまとまって見える。外側の葉を取り除くと、内側の部分がはっきりした。
「同じ野菜でも、畑にあるときと収穫したあとでは、ずいぶん違って見えるね」
「そうだろう。だから、収穫前の様子も覚えておくといい。あとで記録を見返したとき、どの段階の姿なのか分かるからな」
リオは、収穫前と収穫後の野菜を並べて描いた。
絵の横には、『畑で育っている姿』『収穫して葉を整えた姿』と書き添える。
その日の午後、エマたちがやってきた。
リオが記録を見せると、エマは収穫後の野菜を見て驚いた。
「畑にあるときと、形が違うんだね」
「うん。僕も、台所で見たときに気になったんだ」
トーマは記録帳を覗き込み、野菜の名前が書かれた欄を指さした。
「名前を書くところと、見た目を書くところを分けたらどうだろう?」
「どうして?」
「名前が分からないときでも、見た目は記録できるだろ。あとから父さんたちに聞いて、名前を書き足せるようにしておけばいいと思うんだ」
リオは、すぐにその方法を試してみることにした。
記録帳に新しい欄を作り、名前、植えた場所、見た目、教えてもらったことを書き分ける。
名前が分からないものには、無理に名前を書かず、空欄のままにしておいた。
「これなら、間違えて覚えにくくなりそうだね」
エマが言った。
「うん。分からないことを、分からないまま残しておけるから」
夕方、リオは母の手伝いをしながら、収穫した野菜を洗った。
葉を一枚ずつ確かめると、外側には小さな傷がついているものもあれば、きれいなものもある。
野菜は、畑で育てるだけでは終わらない。
収穫したあとに状態を確かめ、使いやすいように整え、料理にする。
その一つひとつがつながっていることを、リオは少しずつ知っていった。
夕食には、畑で採れた野菜を使った料理が並んだ。
リオは、いつもよりも野菜の形をよく見ながら食べた。
「今日は野菜のことをたくさん考えたんだね」
ミーナが笑う。
「うん。畑にあるときと、食べるときで、見え方が違うんだ」
「そうね。食べ物は、畑から食卓までいろいろな手を通ってくるのよ」
リオは頷いた。
記録帳には、まだ名前を確かめていないものが残っている。
次に畑へ行ったときは、種をまいたときの記録と照らし合わせて、もう一度確認してみよう。
そう考えながら、リオは最後の一口を食べた。




