第76話 それぞれの記録帳
昼食のあと、リオは四つの畑の地図と記録帳を持って、村の広場へ向かった。
今日は、エマ、トーマ、カイルと一緒に、それぞれが書いてきた記録を見せ合う約束をしていた。
広場には木陰があり、少し離れたところでは、村の子どもたちが木の枝を使って遊んでいる。
リオが腰を下ろすと、エマが小さな布袋を抱えてやってきた。
「お待たせ。私の記録、持ってきたよ」
「ありがとう」
少し遅れてトーマとカイルも合流した。
四人は木陰に集まり、記録帳を広げた。
最初にエマが見せてくれたのは、葉の形を描いたページだった。
リオは自分の記録と見比べた。
「エマの絵、葉の先が細かく描いてあるね」
「うん。最初は全部同じような形に見えたけど、よく見ると少し違っていたから」
「僕は葉の大きさを中心に描いていたよ」
リオは自分の絵を見せた。
二人の記録には、同じ畑の葉が描かれていた。しかし、エマは葉の先や縁を丁寧に描き、リオは全体の形や大きさを分かりやすく描いていた。
「どっちが正しいのかな?」
エマが尋ねた。
「どっちも、見たものを描いているんだから、間違いじゃないと思うよ。何を確かめたいかで、描き方も変わるんじゃないかな」
リオが答えると、カイルも頷いた。
「僕は、畑の周りのことを多く書いているよ。風が吹いたとき、どこで草が揺れていたかとか」
カイルの記録には、畑の周囲の草むらや柵が描かれていた。風が強かった時間には、小さな印がついている。
トーマの記録は、少し違っていた。
彼は観察した内容を短い文章でまとめ、日付と場所をはっきり書いていた。絵は少なかったが、どこで何を見たのかが分かりやすい。
「トーマのは、あとから探しやすそうだね」
リオが言うと、トーマは照れくさそうに頭をかいた。
「絵を描くのは、あまり得意じゃないんだ。でも、何を見たか忘れるのは嫌だから、短く書くことにしたんだよ」
「それもいい方法だと思う」
四人は、それぞれの記録帳を順番に見て回った。
同じ朝畑を見ていたのに、エマは葉の形を、トーマは土の状態を、カイルは風の通り方をよく覚えていた。
リオは、全体を見て回ることが多かったため、広い範囲の変化を記録していたが、細かな部分は友達のほうが詳しかった。
「同じ場所を見ても、気づくところが違うんだね」
リオがつぶやくと、エマが笑った。
「だから、一緒に見ていると面白いんじゃない?」
その言葉に、リオは頷いた。
自分だけでは気づけなかったことも、友達の記録を見れば知ることができる。
もちろん、友達が書いたことを、そのまま自分の経験として記録するわけにはいかない。誰が見つけたことなのか、分かるようにしておく必要がある。
リオは自分の記録帳に、友達から聞いた話を書くためのページを作った。
『エマの記録から。葉の先や縁の形に違いがあることを教えてもらった』
『トーマの記録から。場所と日付を短い文章でまとめると、あとから探しやすい』
『カイルの記録から。畑の周りの草や柵も、風を考えるときの手がかりになる』
そう書いてから、リオは顔を上げた。
「これからも、気づいたことを教え合おうよ」
「もちろん!」
エマがすぐに答えた。
「分からないことも、そのまま持ってくればいいんだよな?」
トーマの言葉に、カイルも頷く。
「分からないことがあったら、一緒に考えればいいしね」
その後、四人は広場で少し遊んでから、それぞれの家へ戻った。
帰り道、リオは記録帳を抱えながら考えていた。
自分一人で畑を見ていると、見つけられることには限りがある。
けれど、友達と一緒に見れば、違うところに気づくことができる。
誰かの記録を読んで、自分の記録を見直すこともできる。
それは、野菜を育てることとは別の、もう一つの楽しみだった。
家に着くと、アルドが荷車の近くで縄を整理していた。
「今日は友達と何をしていたんだ?」
「記録帳を見せ合っていたんだ。みんな、違うところに気づいていたよ」
「そうか。俺たちも、作業のあとで畑のことを話すことがあるぞ。同じ場所を見ていても、気づくところが違うからな」
「兄さんたちも?」
「当たり前だろ。俺が見落としたことをノアが見つけることもあるし、その逆もある」
リオは嬉しくなった。
友達同士だけでなく、家族の仕事でも、同じようなことがあるらしい。
夕食の席では、リオは今日の出来事を家族に話した。
ミーナは笑顔で聞き、ガイルは「いい記録の残し方を考えたな」と褒めてくれた。
その夜、リオは記録帳に最後の一文を加えた。
『同じ場所を見ても、気づくことは人によって違う。友達の記録を見せてもらうと、自分が見落としていたことに気づける』
記録帳は、リオ一人のものだった。
けれど、そこに書かれることは、少しずつ友達との思い出にもつながっていった。




