第66話 種をしまう場所
その日の午後、ガイルは納屋の棚を整理していた。
市場から持ち帰った種の袋や、次の季節に使う種、家で採れた種などが、いくつかの箱に分けて置かれている。
リオは、以前から気になっていた種袋を見つけ、父のそばへ近づいた。
「父さん、種って、どうやってしまっておくの?」
ガイルは作業の手を止め、棚に並んだ箱を見た。
「種類によって気をつけることは違うが、基本は、種の状態が悪くならないように保管することだな。湿気や虫には注意が必要だ」
「箱に入れておけばいいの?」
「箱に入れるだけでは十分でないこともある。どんな種なのか分かるようにしておくことも大事だよ」
ガイルは棚から一つの箱を取り出した。
中には、小さな袋がいくつも並んでいた。袋には種の名前や、採った時期らしい日付が書かれている。
「これなら、どの種がいつのものか分かるね」
「そうだ。名前が分からなくなると、あとで困るからな」
リオは、以前自分が記録帳に書いた質問を思い出した。
種の名前。植える時期。育てるときに気をつけること。
それらをまとめておけば、いざ植えるときに迷わずに済むかもしれない。
「僕たちの畑でも、種をしまう箱を作ったほうがいいかな」
「今のところは、無理に作らなくてもいいだろう。だが、これから種を集めるなら、どこに何があるのか分かるようにしておくといい」
リオは頷いた。
その日の夕方、エマたちと畑の記録をまとめていると、種の話になった。
「収穫したら、種も取っておけるのかな?」
カイルが尋ねた。
「野菜によるんじゃないかな。父さんは、種を残すときには、育て方だけじゃなくて、保存の仕方も考えないといけないって言っていたよ」
リオが答えると、エマは記録帳に目を落とした。
「じゃあ、収穫した野菜から種を取ることについても、調べておきたいね」
「でも、全部の野菜から同じように取れるわけじゃないんだろう?」
トーマが言った。
四人は、種について知っていることを話し合った。しかし、実際にどうすればよいのか、分からないことも多かった。
そこで、次にガイルへ聞くことをまとめることにした。
どの野菜から種を取れるのか。取った種は、すぐに植えられるのか。保管するときには何に気をつけるのか。
リオは質問を記録帳に書き込み、四つの畑の地図と一緒にしまった。
数日後、ガイルが種を整理する作業をしていたので、リオはその様子を見せてもらった。
父は袋の中身を確かめ、状態を見てから、種類ごとに分けていた。袋の外側には、種の名前と日付が書かれている。分からないものは、無理に名前を決めず、別の場所に置いていた。
「どうして、分からないものは別にするの?」
「名前を間違えてしまうと、あとで正しい育て方が分からなくなるからな。分からないなら、分からないと分かるようにしておくんだ」
リオは、その言葉を聞いて納得した。
分からないことを隠す必要はない。むしろ、分からないものを分からないまま区別しておけば、あとから調べることができる。
「僕の記録帳と同じだね」
「そうだな。記録は、知っていることだけを書くものじゃない。あとで確かめたいことも残しておけばいい」
リオは嬉しくなった。
畑の記録を始めたころは、分かったことをたくさん書くのが大事だと思っていた。しかし、今は分からないことを残しておく意味も、少しずつ分かってきた。
夕方、リオは自分たちの記録帳に新しいページを作った。
題名は「種について知りたいこと」。
種の名前、植える時期、育て方、保存の方法。それぞれの項目の下に、まだ分からないことを書き込めるようにした。
すぐに答えが埋まるわけではない。
それでも、調べたいことがまとまっていれば、次に何をすればいいのか分かりやすくなる。
リオは記録帳を棚にしまった。
いつか自分たちの畑で収穫した野菜から種を取る日が来るかもしれない。
そのときに困らないように、今は少しずつ知識を集めていこうと思った。




