第65話 リナの小さな発見
午後、リオが記録帳を整理していると、部屋の入口から小さな声がした。
「お兄ちゃん、何してるの?」
振り返ると、妹のリナが立っていた。
リナはリオより四つ年下で、最近は庭で遊ぶことが増えている。歩くときにはまだ少し足元がおぼつかないこともあるが、気になったものを見つけると、すぐに近づいて確かめようとする。
「畑の記録をまとめているんだよ」
リオが記録帳を見せると、リナは机のそばまでやってきた。
「これ、葉っぱ?」
「そうだよ。朝畑で見つけた葉っぱを描いたんだ」
リナは絵をじっと見つめたあと、窓の外を指差した。
「リナも、葉っぱ見たい!」
リオは少し考えた。
畑の中には、まだ小さな芽もある。妹が歩き回ってしまうと、うっかり踏んでしまうかもしれない。
「じゃあ、畑の外から見よう。土の中には入らないで、僕と一緒に歩こうね」
「うん!」
リオはリナの手を取り、庭へ出た。
最初に向かったのは、家の近くにある朝畑だった。畝の中には入らず、外側から芽の様子を見ていく。
「これが葉っぱだよ」
リオが指差すと、リナは背伸びをして覗き込んだ。
「ちっちゃいね」
「前はもっと小さかったんだよ。毎日少しずつ大きくなっているんだ」
「もっと大きくなるの?」
「そうだね。ちゃんと育てば、もっと大きくなると思うよ」
リナは不思議そうに葉を見つめていた。
しばらくすると、別の芽に気づいたらしい。
「あっちも葉っぱ!」
リオは妹の指差した先を見た。そこには、少し丸みのある葉が広がっている。
「こっちは、さっきの葉っぱと形が違うね」
「ちがう!」
リナは嬉しそうに声を上げた。
リオは、その反応に思わず笑った。
自分も最初は、葉の形が違うことに気づくたびに驚いていた。今では当たり前のように見ているが、妹にとっては、畑の中にあるものがどれも新しい発見なのだ。
「リナは、どっちの葉っぱが好き?」
リオが尋ねると、リナは少し考えたあと、丸い葉を指差した。
「こっち!」
「どうして?」
「まるいから!」
理由は単純だったが、リナらしい答えだった。
リオは記録帳を開き、妹が見つけた葉の形を描いた。
その横には、小さく「リナが丸い葉を見つけた」と書き添えた。
「お兄ちゃん、何書いてるの?」
「リナが見つけたことを忘れないように書いているんだよ」
「リナのことも書くの?」
「うん。今日、畑で一緒に見たことだからね」
リナは嬉しそうに笑った。
そのあと、二人は日なた畑の近くまで歩いた。リオは妹が疲れないように、途中で何度も休憩を挟んだ。
リナは畑の端に咲いていた小さな花にも気づき、足を止めた。
「お花!」
「そうだね。これは野菜じゃなくて、花だよ」
「お野菜にならないの?」
「花は花だよ。でも、畑の近くにはいろんな植物があるんだ」
リオは、花を摘まずにそのまま眺めた。
以前なら、畑にあるものは野菜か草か、そのくらいの違いしか考えていなかったかもしれない。けれど、今は葉の形や育つ場所、土の様子など、いろいろなことに目が向くようになっていた。
リナが小さな花を見つけたことで、リオもその存在を改めて意識した。
家へ戻る途中、リナは何度も畑を振り返っていた。
「また見に来る?」
「もちろん。明日も見に来ようね」
「うん!」
夕方、リオは記録帳に今日のことを書き足した。
妹と一緒に畑を見たこと。丸い葉を見つけたこと。畑の近くに小さな花が咲いていたこと。
最後に、リナが言った言葉も残した。
「まるいから!」
記録帳を閉じたリオは、少しだけ笑った。
畑のことを知っているつもりでも、誰かと一緒に見れば、また違ったものが目に入る。
妹はまだ、野菜の名前を全部覚えているわけではない。それでも、自分なりの見方で、いろいろなものを見つけていた。
明日も一緒に歩けば、また新しい発見があるかもしれない。
リオは、そんな日を楽しみにしていた。




