第62話 背丈を測るための棒
四つの畑の地図ができてから二日後、リオはトーマと一緒に朝畑を見に行った。
トーマは、以前から気になっていた芽の高さを調べるつもりだった。記録帳には何度か背丈を書いていたものの、どの芽を測ったのか分からなくなってしまったことがあったからだ。
「今日は、ちゃんと同じ芽を測りたいんだ」
トーマはそう言って、短い木の棒を一本持ち上げた。
「それを使うの?」
「うん。目印にできると思って」
しかし、棒には何も書かれていなかった。トーマはそれを芽の横に立て、しばらく眺めてから首を傾げた。
「これだけだと、どこまで伸びたか分からないな」
リオも考え込んだ。
棒を立てておけば、同じ芽を見つけることはできる。けれど、前よりどれくらい高くなったのかを比べるには、何か基準が必要だった。
「父さんに聞いてみようか」
二人は家へ戻り、ガイルが作業をしている納屋の前へ向かった。
ガイルは使い終わった農具を拭いていた。リオが背丈を測りたいと説明すると、父は木の棒を受け取り、しばらく考えた。
「なら、棒に目盛りをつけるといい。正確な道具でなくても、同じ棒を使えば、前と比べやすくなる」
ガイルは細い板を取り出し、端から等しい間隔で印をつけた。
「この印と印の間を、同じ長さにしておくんだ」
リオはその様子をじっと見た。
父は小さな印をいくつも並べ、一定の間隔で線を引いていく。数字も書き込んだが、リオたちが使うなら、まずは簡単な印だけでもよいらしい。
「ただし、棒を土に差し込む深さが毎回違うと、比べにくくなる。測るときは、同じ場所から測ることも大事だぞ」
「同じ場所から……」
リオは言葉を繰り返した。
芽の高さを測るなら、土の表面から葉の先まで測る。棒をどこに立てるか、葉が傾いているときはどうするか。考えてみると、決めておかなければならないことがいくつもあった。
ガイルは、まずは難しく考えすぎず、土の表面から一番高いところまでを目安に測ってみるように教えてくれた。
その日の午後、リオとトーマはエマとカイルにも話をした。
「同じ芽を測るために、目盛りのある棒を使うんだ」
リオが説明すると、エマは記録帳を取り出した。
「じゃあ、どの芽を測るのか決めておこうよ。葉の形を描いた場所と同じでもいい?」
「それなら、地図を見れば場所が分かるね」
カイルも賛成した。
四人は朝畑の中から、観察する芽をいくつか選んだ。葉を踏まないように気をつけながら、地図に示した場所と照らし合わせる。
リオは一本目の芽を測った。
土の表面から葉の先までを確かめ、目盛りを読み取る。トーマはその数字を記録し、エマは芽の形を描き、カイルは周囲の土の状態を見た。
同じ作業を、選んだ芽について繰り返した。
「こっちは少し高いね」
トーマが言った。
「でも、葉が横に広がっているから、高さだけでは大きさが分からないね」
エマの言葉に、リオは頷いた。
背丈が高いからといって、必ずしも葉が大きいとは限らない。葉が広がっている芽もあれば、上へ伸びるように育っている芽もある。
「だから、背丈と葉の形は別々に記録したほうがよさそうだね」
リオは記録帳に書き込んだ。
測る作業は、思っていたよりも時間がかかった。目盛りを読み違えないようにしなければならないし、どの芽を測ったのかも忘れないようにする必要がある。
それでも、四人は最後まで測り終えた。
帰り道、トーマは目盛りの棒を大切そうに抱えていた。
「次に測ったら、どのくらい伸びたか分かるね」
「うん。同じ場所を、同じやり方で測るんだ」
リオはそう答えた。
夕食のあと、リオは今日の記録を整理した。
芽の場所、測った日、背丈、葉の形。これらを一緒に書いておけば、あとから見返したときに違いが分かりやすい。
最後に、リオは小さく書き添えた。
同じものを比べるときは、同じ方法で測る。
明日すぐに大きな変化が見つかるとは限らない。
けれど、同じ方法で記録を続ければ、いつか違いが見えるはずだ。
リオは目盛りの棒を壁際に立てかけ、明日も使えるようにしておいた。




