第61話 四つの畑の地図
翌朝、リオ・フェルナーは朝食を食べ終えると、いつもの記録帳を持って庭へ出た。
昨日、四つの畑の記録を一冊にまとめたばかりだった。エマたちと一緒に作った記録は、これまで別々に書いていた絵や観察したことが一つに集まり、思っていた以上に見やすくなっていた。
しかし、昨夜の夕食でノアから言われたことが、リオの頭に残っていた。
畑の場所が分かる地図を作ってみたらどうか。
「地図かあ……」
リオは庭の端に立ち、四つの畑がある方向を眺めた。
朝畑は家から少し歩いたところにある。日なた畑はその向こう側で、豆畑は朝畑から道を挟んだ場所にある。角の畑は、ほかの畑から少し離れたところに作っていた。
どれも自分たちで名前をつけた畑だが、紙の上に描こうとすると、どこから始めればいいのか分からなかった。
とりあえず、リオは地面に小枝で四角を描いた。
「ここが家で、こっちが朝畑……」
四角を並べ、道らしい線を引いてみる。ところが、描き終わってから眺めると、実際の位置関係とは少し違っていた。
朝畑と豆畑はもっと近い。日なた畑はもう少し奥にある。角の畑に至っては、どちらの方向へ置けばよいのか迷ってしまった。
「うーん、難しいな」
「何をしているの?」
振り返ると、エマが籠を持って立っていた。
「地図を作ろうと思ったんだけど、うまく描けないんだ」
リオが地面を指差すと、エマは隣にしゃがみ込んだ。
「地図なら、上から見た形を描けばいいんじゃない?」
「上から?」
「うん。実際に空から見ることはできないけど、上から見たつもりで描くの」
エマは小枝を受け取り、家の位置を少し大きめの四角で囲んだ。その下に道を一本引き、道の両側に畑を置いていく。
リオも隣から意見を出した。
「朝畑は、家からこのくらいの距離だよね」
「そうだね。でも、日なた畑はもう少し向こうかな」
二人は実際の畑を見に行き、歩いている道や、畑同士の距離を確かめながら地図を描き直した。
しばらくすると、トーマとカイルもやってきた。
トーマは道の曲がり方を覚えていて、カイルは畑の端にある木や石の位置をよく知っていた。四人で話し合うと、リオ一人では思い出せなかったことが次々と出てきた。
「この木のそばを通ると、角の畑に行きやすいよ」
カイルが言う。
「でも、木を描くだけじゃ畑の場所が分からないんじゃない?」
トーマが返す。
「じゃあ、畑の名前も書けばいいよ」
エマの提案で、それぞれの畑に名前を添えることにした。
完成した地図は、まだ少し歪んでいた。道の幅も実際とは違うし、畑の大きさも正確ではない。それでも、家からどちらへ進めばよいのか、四つの畑がどこにあるのかは分かるようになっていた。
リオは地図を紙に描き写し、四つの畑の名前を書き込んだ。
さらに、畑の中で観察する場所も記録できるよう、小さな印をつけることにした。
「これで、前に描いた葉っぱがどこにあったのかも分かるね」
エマが嬉しそうに言った。
「うん。これからは、場所も一緒に書くようにするよ」
四人は地図を持って、もう一度畑を回った。
朝畑では、間引きをした場所を確かめた。日なた畑では、土が乾きやすいと感じたところを印で示した。豆畑では、以前から気になっている小さな草の場所を記録し、角の畑では、葉の形を描いた場所を示した。
こうして見ると、地図には畑の場所だけでなく、自分たちが何を見つけたのかも残せる。
リオは、それが少し嬉しかった。
夕方、家へ帰ると、ノアが納屋の前で籠を直していた。
「地図はできたのか?」
「うん。まだ正確じゃないけど、どこに畑があるか分かるようになったよ」
リオは地図を見せた。
ノアはしばらく眺め、道の曲がり方や畑の配置を確認した。
「いいじゃないか。最初から完璧に描く必要はないさ。使ってみて、違うところがあれば直せばいい」
「あとから直してもいいの?」
「もちろんだ。地図だって、記録帳と同じだよ。新しく分かったことがあれば、書き足せばいい」
リオは地図を見つめ直した。
完成したら終わりだと思っていたが、使いながら変えていくこともできるのだ。
夕食のあと、リオは地図を記録帳の最初のページに挟んだ。
これから畑を観察するときには、この地図を見ながら場所を確かめよう。
四つの畑は、これまでと変わらず、いつもの場所にある。
けれど、地図に描いたことで、リオには少し違った景色に見えるようになっていた。




