第60話 四つの畑の小さな報告会
雨が上がってから数日後、リオはエマたちに提案をした。
「今度、四つの畑のことをみんなでまとめてみない?」
朝畑の端で、リオは記録帳を開いた。
「まとめるって、どうするの?」
エマが尋ねた。
「それぞれの畑で、何が変わったのかを話すんだ。芽がどのくらい大きくなったかとか、葉の形とか、雨が降ったあとのこととか」
トーマは少し考えたあと、頷いた。
「いいね。僕は高さを見ておくよ。前に比べて、どのくらい伸びたか分かるようにしたい」
「私は葉の形を描くね」
エマも紙を取り出した。
カイルは四つの畑を見回した。
「じゃあ、僕は土の様子を調べようかな。水をまいたあとや、雨が降ったあとで、どう違うか見てみたい」
それぞれが自分の得意なことや、気になっていることを担当することになった。
リオは、全員の記録を一つにまとめる役を引き受けた。
ただし、何もかも一人で決めるのではなく、みんなが見つけたことをそのまま書き残す。意見が違うときは、どちらかを無理に正しいと決めず、違いがあることも記録しておく。
四人はまず朝畑を見て回った。
トーマは芽の高さを見比べ、エマは葉を描き、カイルは土の表面を確かめた。リオは、それぞれが見つけたことを聞きながら、記録帳に書き込んでいく。
朝畑では、以前よりも葉が大きくなっていた。間引きをした場所には、芽の周りに隙間ができている。雨のあとに土が流れた場所は、乾いてからガイルが形を整えてくれたため、今は落ち着いていた。
日なた畑では、日差しが当たりやすい場所の土が乾きやすいことに気づいた。けれど、葉の大きさが違う理由までは、まだ分からない。
豆畑では、茎が少しずつ伸びている。葉の形もはっきりしてきたが、近くに生えている草と見分けにくい場所があるので、引き続き注意して見ることになった。
角の畑には、ほかの畑と違う形の葉が並んでいる。エマが描いた絵を見ながら、どの葉が大きくなったのかを確認した。
「前の絵と比べると、ずいぶん変わったね」
エマが言った。
「毎日見ていると気づきにくいけど、最初の絵と比べると分かるよ」
リオは記録帳の最初のページを開いた。
そこには、土から顔を出したばかりの小さな芽が描かれていた。今の芽と比べると、葉の数も形も違っている。
「最初は、どんな野菜になるのかも分からなかったんだよね」
カイルが言った。
「今も、全部分かっているわけじゃないけどね」
リオが答えると、四人は笑った。
分からないことが残っているのは、失敗ではない。これからも見ていけば、分かることが増えていくかもしれない。
昼食のあと、四人はリオの家の庭に集まり、記録をまとめる作業を続けた。
エマの絵を並べ、トーマが調べた高さを書き、カイルが気づいた土の様子を添える。リオは、それらを日付ごとに整理した。
途中で、トーマが自分の記録を見て首を傾げた。
「僕、前に一番高い芽を記録したけど、どの芽だったか分からなくなっちゃった」
「目印をつけておけばよかったね」
リオはそう言いながら、次からは測った場所が分かるように、小さな印をつけることにした。
エマも、絵を描いた葉がどの場所にあったのか、記録に書き添えることにした。
「絵だけだと、どの畑の葉なのか忘れちゃうことがあるものね」
「記録を残すときは、何を描いたのかも分かるようにするんだね」
リオは新しいページに、畑の名前、日付、観察した場所を書く欄を作った。
これなら、あとから見返しても、どの畑のことなのか分かりやすい。
夕方になるころ、四人の記録は一冊のノートにまとまった。
正確なことばかりではない。まだ分からないことも多いし、書き方も少しずつ違っている。それでも、四人がそれぞれ見つけたことが一つに集まった。
リオは、ノートの最初に題名を書いた。
『四つの畑の記録』
その下に、朝畑、日なた畑、豆畑、角の畑の名前を並べた。
「これからも、続けていこうね」
エマが言った。
「うん。収穫できるようになったら、どのくらい育ったかも書こう」
トーマは、収穫した野菜の数を記録したいと話した。カイルは、種をまいたときのことも忘れないように残しておきたいと言った。
リオは三人の話を聞きながら、これから先の畑のことを考えた。
今はまだ、小さな芽が育っているところだ。すぐにたくさんの野菜が採れるわけではない。それでも、種をまいた日から今日まで、畑は少しずつ変わってきた。
それを見つけ、記録し、友達と話し合うことができた。
それだけでも、十分に嬉しかった。
夕食のあと、リオは家族にノートを見せた。
ガイルは記録を一つずつ眺め、ミーナはエマの描いた葉を褒めた。アルドは、収穫した野菜の重さも記録しておくと、あとで比べやすいかもしれないと教えてくれた。
ノアは、畑の場所が分かるように簡単な地図を描いてみたらどうかと提案した。
リオは、まだまだ工夫できることがあるのだと気づいた。
「次は、地図も作ってみようかな」
そう呟くと、ガイルは穏やかに笑った。
「焦らなくていいさ。畑は明日もそこにある。少しずつ覚えていけばいい」
リオは頷いた。
四つの畑は、まだ小さな畑だ。
けれど、毎日見て、考えて、友達と話し合ううちに、少しずつ自分たちの畑になってきた。
窓の外では、夕暮れの風が畑の葉を揺らしていた。
リオは記録帳を閉じ、明日も畑へ行こうと決めた。
明日になれば、また新しい変化が見つかるかもしれない。
それを楽しみにしながら、リオは家族の待つ食卓へ戻っていった。




