第57話 初めての間引き
朝畑を見に行ったリオは、芽が以前よりも密集している場所があることに気づいた。
同じ畝に並んだ芽の葉が、隣同士で触れ合っている。大きくなった葉が広がり、近くにある小さな芽の上に影を落としていた。
「こんなに近くに生えていたかな」
リオはしゃがみ込み、芽の並びを確かめた。
種をまいたときには、どのくらいの間隔でまけばよいのか、まだよく分かっていなかった。土に小さな穴を作り、種を入れたつもりだったが、いくつかの場所では思ったよりも近くに芽が出ている。
そこへガイルが通りかかった。
「どうした、リオ?」
「ここの芽が、くっつきそうなんだ。どうしたらいい?」
ガイルは畝の前にしゃがみ、芽の様子をじっくりと見た。
「これは、間引きを考えてもいいところだな」
「間引き?」
「育ちすぎた芽や、近くに集まりすぎた芽の一部を取り除いて、残した作物が育つ場所を作ることだよ。ただし、何でも抜けばいいわけじゃない」
リオは、思わず芽を見つめた。
せっかく種から育った芽を、自分で抜いてしまうのだろうか。
「抜いちゃうの?」
「ああ。全部を残すより、適切な間隔を空けたほうが育ちやすい作物もある。だが、どの芽を残すかは、作物の種類や育ち具合を見て決めるんだ」
ガイルは、どの芽を残すのかを示しながら、根元の位置や葉の大きさを説明した。
リオは話を聞きながら、胸の中に小さな迷いを感じていた。
どの芽も、土から顔を出したときは嬉しかった。毎日見に来て、少しずつ葉が広がるのを楽しみにしていた。その芽を自分の手で抜くのは、何となくもったいない気がしたのだ。
「全部、育てることはできないの?」
「作物によっては難しいな。隣同士が近すぎると、根を広げる場所が足りなくなったり、葉が重なったりすることがある。間引きは、残した芽を育てるためにするんだよ」
ガイルの説明を聞き、リオは少しだけ納得した。
けれど、すぐには手を動かせなかった。
その日の昼前、エマたちが集まったとき、リオは間引きについて話した。
「芽を抜くのって、何だかもったいないね」
エマも同じ気持ちだったようだ。
「私もそう思う。でも、全部が育たないなら、残す芽を決めなきゃいけないんだよね」
トーマは畝の端を覗き込んだ。
「大きい芽を残せばいいんじゃない?」
「大きさだけで決めていいのかな」
カイルが首を傾げる。
四人は、どの芽を残すべきか話し合った。しかし、子どもたちだけでは判断できないことも多かった。
そこで、ガイルにもう一度確認することにした。
父は、作物によって適切な間隔が異なることを説明し、今回の畝では、葉が重なりすぎている場所を中心に、少しずつ間隔を空けるとよいと教えた。
「抜く前に、どの芽を残すか決めるんだ。手を動かしてから考えると、必要な芽まで抜いてしまうかもしれないからな」
リオは一つずつ芽を見て、残すものを決めた。
根元を傷つけないように気をつけながら、余分な芽をそっと抜く。土が一緒に持ち上がったときは、指で軽く押さえて元に戻した。
最初の一本を抜いたとき、リオは少しだけ胸が痛んだ。
しかし、畝を見直すと、残した芽の周りに小さな空間ができていた。葉が重なりすぎていた場所にも、隙間が生まれている。
「これでいいのかな」
リオが尋ねると、ガイルは頷いた。
「まずはこれで様子を見よう。間引いたあとも、残った芽がどう変わるか観察しておくといい」
リオは抜いた芽を手のひらに載せた。
小さな根がついていて、まだ葉も柔らかい。捨てるのが惜しく感じられたが、ガイルに聞くと、今回の芽は食べるために育てたものではないので、土に戻すなど、家で決めた方法で片づけるとよいと教えてくれた。
作物を育てることは、ただ増やしていくことではない。
残すものを選ぶことも、必要な仕事なのだ。
夕方、リオは記録帳に間引きをした場所を描いた。
間引く前の芽の並びと、間引いたあとの間隔を簡単な絵にして並べる。どの芽を抜いたかも、小さな印で示した。
最後に、今日感じたことを書いた。
芽を抜くのはもったいないと思った。でも、残した芽が育つために必要なこともある。
書き終えたリオは、記録帳を閉じた。
明日になれば、残した芽の様子が少し変わっているかもしれない。
それを確かめることが、今の自分にできる次の仕事だった。




