第54話 畑のまわりの草取り
その朝、ガイルは納屋の前で鎌を研いでいた。
砥石に水をつけ、刃を滑らせるたびに、かすかな音が響く。リオは少し離れた場所で、その様子を眺めていた。
「父さん、今日は草を刈るの?」
「ああ。畑のまわりに草が増えてきたからな。お前たちの畑も、そろそろ見ておいたほうがいいぞ」
リオはすぐに四つの畑を思い浮かべた。
芽が出てからは、葉の形や背丈ばかりに目が向いていた。しかし、畑の端や畝の間には、野菜とは違う草も生えている。
「野菜じゃない草は、全部抜けばいいの?」
「そう簡単にはいかないな。作物の近くに生えている草は、養分や水を取り合うことがある。けれど、どれがどんな草なのか分からないうちは、むやみに抜かないほうがいい」
ガイルは鎌を布で拭きながら答えた。
「それに、作物の芽と間違えることもあるからな」
リオは、先日見つけた小さな芽を思い出した。
角の畑には、ほかの芽と少し違う形のものがあった。あれが野菜なのか、ただの草なのか、まだ判断できていなかった。
「僕たちの畑でも、父さんに見てもらっていい?」
「もちろんだ。ただし、危ない道具は使わないこと。草を抜くなら手でできる範囲にしておけ」
昼前、リオはエマたちと一緒に畑へ向かった。
まずは朝畑の端を見て回る。野菜の芽から少し離れた場所に、細い草が何本も生えていた。葉は小さく、地面に沿うように広がっている。
「これ、抜いていいのかな」
トーマが草を指差した。
「父さんに聞いてからにしよう。間違えて野菜を抜いたら困るから」
リオの提案に、三人は頷いた。
ガイルを呼びに戻ると、父は畑を一通り見て、草の根元を指で示した。
「これは畑の端に生えている草だな。野菜から離れているから、抜いても大丈夫だ。根が残らないように、土を少し柔らかくしてから引くといい」
リオたちは教えられたとおり、草の根元を押さえ、ゆっくりと引き抜いた。
力を入れすぎると、茎だけが切れて根が残ってしまう。土が固いところでは、草を揺らしてから引くと抜きやすかった。
「抜けた!」
トーマが草を持ち上げた。
根には小さな土の塊がついている。リオも同じように草を抜き、根がどのくらい伸びているのか確かめた。
「こんなに根があるんだね」
「葉っぱだけ見ていたら、分からなかったね」
エマも頷いた。
草を抜き終えると、四人は畑の端に集めた草を運んだ。どこへ置けばよいのか分からなかったので、ガイルに確認すると、作物の上にかぶさらないようにまとめておくよう教えられた。
そのあと、日なた畑と豆畑も見回った。
豆畑の端には、野菜の芽によく似た小さな草が生えていた。リオは抜こうと手を伸ばしたが、途中で止めた。
「これは、どうしよう」
エマが近づいて葉を見た。
「葉っぱの形が少し違うような気がする」
「でも、まだ小さいから分からないよ」
カイルも慎重だった。
結局、その草は抜かずに、場所だけを記録することにした。ガイルに見てもらうのは、もう少し葉が大きくなってからでも遅くない。
「何でもすぐに決めなくてもいいんだね」
リオが言うと、ノアが畑の向こうから笑った。
「分からないものを分からないままにしておくのも、畑では大事だぞ。間違って抜いてしまったら、元には戻せないからな」
ノアは大きな畑の草取りをしているところだった。こちらの様子を見て、少しだけ助言してくれたのだ。
夕方、リオは記録帳に草取りのことを書いた。
草の根は、葉だけ見ていると分からない。作物に似た芽を見つけたときは、すぐに抜かず、よく確かめる。
それから、抜いた草の根を簡単に描いた。
畑で育てているものばかりが大切なのではない。作物のそばに生える草にも気を配らなければ、野菜を育てることはできないのだ。
翌日、リオたちはもう一度、昨日残した草を見に行くことにした。
葉の形が変わっているかもしれないし、まだ分からないかもしれない。
どちらでも構わなかった。
四つの畑は、野菜を育てる場所であると同時に、毎日新しいことを知る場所でもあるのだから。




