第53話 エマの描いた葉っぱ
昼食を終えたあと、リオは記録帳を持って庭へ出た。
空には薄い雲が流れていた。風は強くなく、納屋の横に置かれた木箱の上には、乾かしている布が一枚広げられている。
リオは四つの畑を順番に見て回り、気になった芽を一つずつ観察した。
最近は、芽の背丈だけでなく、葉の形にも違いが出てきた。丸みのある葉、細長い葉、縁が少し波打っている葉。同じ畑の中でも、成長の速さは一様ではない。
「これ、前より葉っぱが大きくなったよね」
後ろから声がした。
振り返ると、エマが紙と木炭を持って立っていた。
「エマも記録するの?」
「うん。リオが毎日描いているから、私もやってみようと思ったの」
エマは朝畑の端に腰を下ろし、葉を見ながら紙に線を引き始めた。
リオはその様子を見て、自分も隣に座った。
エマの描く葉は、リオのものよりも丸みがはっきりしていた。葉の根元から先端までの線も滑らかで、細かな形が分かりやすい。
「上手だね」
「そうかな。何度も描き直しているよ」
エマは紙を少し持ち上げて見せた。そこには、線を消した跡や、描き直した葉の輪郭が残っていた。
「最初は大きく描きすぎちゃったの。だから、もう一回描いたんだ」
「僕は、葉っぱを描くときに、どこから線を引けばいいか分からなくなるよ」
「全部を一度に描こうとしないで、先に形を見るといいんじゃないかな」
エマは葉を指差した。
「ここが一番広くて、こっちは細くなっているでしょう? それを見てから描くの」
リオは葉をじっと見た。
確かに、葉の形をそのまま写そうとすると、どこを見ればいいのか分からなくなる。けれど、広い部分と細い部分、先端の形、葉の付け根というように分けて考えると、少し描きやすそうだった。
さっそく試してみる。
まず、葉の大まかな形を描く。それから先端を整え、付け根の位置を決める。最後に、葉の中央にある筋を一本引いた。
出来上がった絵は、まだ少し歪んでいた。
「前より分かりやすくなったんじゃない?」
エマが言った。
リオは自分の絵と本物の葉を見比べた。完全に同じではないが、どんな形の葉なのかは伝わりそうだった。
「ありがとう。エマの描き方を見ていたら、少し分かったよ」
「じゃあ、今度は私がリオの記録帳を見てもいい?」
リオは頷き、これまで描いてきた絵を見せた。
日付ごとに並んだ芽の絵は、少しずつ大きくなっていた。最初のころは土の中から顔を出したばかりだった芽が、今では葉を広げている。
エマは一枚ずつ、ゆっくりと眺めた。
「こうして見ると、最初は本当に小さかったんだね」
「毎日見ていると、あんまり変わらないように思うんだ。でも、前の絵と比べると大きくなっているよ」
「私も、これから描いてみようかな」
「うん。一緒に描こう」
二人はそれぞれの畑を回り、気になった葉を紙に描いた。
途中でトーマとカイルもやってきた。トーマは葉の形よりも、どの芽が一番高くなっているのかが気になるらしい。カイルは、同じ種類の葉でも少しずつ大きさが違うことに気づいた。
「これ、こっちの葉っぱのほうが大きいよ」
カイルが指差した先には、よく似た葉が二つ並んでいた。
「本当だ。でも、植えた日も同じだったよね?」
リオが尋ねると、エマが自分の記録を確かめた。
「うん。同じ日に種をまいたはずだよ」
「土の違いかな?」
トーマが言った。
「日当たりかもしれないよ」
カイルも考えを口にした。
リオは二人の話を聞きながら、すぐには答えを決めないことにした。葉の大きさが違う理由は、まだ分からない。土や日当たりだけでなく、種そのものの違いかもしれないし、ほかにも何かあるのかもしれない。
「今日は、葉っぱの大きさが違うってことだけ書いておこう」
「それがいいね」
エマは頷いた。
日が傾き始めるころ、四人は描いた紙を並べて見比べた。
同じ畑を見ていても、気づくことはそれぞれ違っていた。リオは成長の変化を見ていたし、エマは葉の形を丁寧に描いていた。トーマは高さに注目し、カイルは同じ種類の葉の大きさを比べていた。
どれか一つだけが正しいわけではない。
リオはそう思った。
夕方、自分の記録帳に今日のことを書いた。
葉をよく見ると、形や大きさの違いが分かる。友達と一緒に観察すると、自分では気づかなかったことも見つかる。
その下には、エマが描いた葉の形を思い出しながら、小さな絵を一つ添えた。
明日も同じ葉を見たら、また違うところが見つかるだろうか。
リオは記録帳を閉じ、紙を大切にしまった。




