↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/95

第50話 次の楽しみ

 朝、僕は朝畑の前で、しばらく立ち止まっていた。


 種を植えたばかりのころは、土の上には何も見えなかった。毎朝、芽が出ていないかを確かめ、土の様子を見て、雨の日には家の中で記録をつけた。


 それから少しずつ芽が出て、葉が開き、今では畝のあちこちに小さな緑が見えるようになった。


 まだ大きく育ったとは言えない。でも、最初のころと比べれば、畑の景色はずいぶん変わった。


「リオ、何を見てるの?」


 エマの声が聞こえた。


 振り返ると、エマとトーマ、カイルがやってきた。


「最初に種を植えたころのことを思い出してたんだ」


「何も生えてなかったころ?」


 トーマが言った。


「そう。毎日見に来ても、何も変わっていないように見えたんだよね」


「でも、土の下では育ってたんだよね」


 エマが芽を眺めながら言った。


 僕は頷いた。


 目に見えない間にも、変化は起きていたのかもしれない。だからこそ、すぐに結果が出なくても、世話を続けることが大切なのだろう。


 僕たちはそれぞれの畑を見て回った。


 朝畑では、葉が少しずつ広がっている。日なた畑では、芽の周りの土が乾きやすい場所がある。豆畑には新しい芽が増え、角の畑でも、小さな緑が少しずつ目立つようになっていた。


 四つの畑は、同じように見えて少しずつ違う。


 僕たちは記録の紙を並べ、今までに気づいたことを確認した。


「最初に芽が出たのは朝畑だったね」


 エマが言った。


「でも、どの畑が一番よく育つかは、まだ分からないよ」


 カイルが答えた。


「これから葉が増えたり、もっと大きくなったりするからね」


「それに、収穫できるようにならないと、どれくらい育ったかは分からないもんな」


 トーマが言った。


 僕たちは、これからの楽しみについて話し合った。


 芽がもっと大きくなること。葉が増えること。作物がどんな形に育つかを見ること。そして、いつか収穫して、自分たちで育てた野菜を食べること。


 まだ先のことばかりだったけれど、考えるだけで楽しくなった。


「収穫できたら、みんなで食べ比べしてみたいね」


 エマが提案した。


「いいね! 僕の豆も食べてもらいたいな」


 トーマは胸を張った。


「ちゃんと育ったらね」


 カイルが笑う。


「もちろん! だから、ちゃんと世話をするんだよ」


 トーマはそう言って、豆畑の芽を眺めた。


 僕も朝畑を見た。


 収穫までには、まだやることがたくさんある。水をあげる日もあれば、草を抜く日もある。天気によっては、畑の様子を見て作業を変える必要もある。


 それでも、みんなで同じ目標を持っていると思うと、毎日の仕事が少しだけ楽しく感じられた。


 昼前、僕たちは畑の手入れを終え、それぞれの記録に今日の様子を書き加えた。


 僕は今までの記録を並べてみた。


 種を植えた日。雨が降った日。最初の芽を見つけた日。芽が増えた日。葉の形を観察した日。日当たりを調べた日。


 紙の枚数は増えたけれど、どれも大切な記録だった。


 最初は、芽が出るかどうかだけが気になっていた。けれど、今は芽が出てからも、いろいろなことに気づくようになった。


 畑の仕事は、ただ作物が育つのを待つだけではない。毎日見て、考えて、必要なことを少しずつ続けていくものなのだ。


 午後、家へ戻ると、母さんが夕食の準備をしていた。


「畑はどうだった?」


「葉が少しずつ増えてきたよ。みんなで、収穫できたら食べ比べしようって話したんだ」


「それは楽しみね。でも、収穫できるまでは、まだお世話が必要よ」


「分かってる。毎日ちゃんと見に行くよ」


 母さんは笑って、洗った野菜を籠に入れた。


 僕はその籠を台所まで運ぶのを手伝った。


 夕食のあと、机に向かって今日の記録を書いた。


 最後に、少しだけ考えてから一文を加えた。


「みんなで育てた野菜を、いつか一緒に食べたい」


 書き終えた紙を、今までの記録の束に重ねる。


 種を植えた日から、今日まで。毎日の変化は小さくても、こうして並べてみると、確かに前へ進んでいることが分かる。


 明日になれば、また新しい変化が見つかるかもしれない。


 何も変わっていないように見える日もあるだろう。


 それでも、僕は朝畑へ行く。


 小さな芽を見て、土を確かめ、必要な仕事をする。


 エマたちも、それぞれの畑で同じように頑張っているはずだ。


 僕たちの畑は、まだ始まったばかり。


 収穫までの道のりは長いけれど、その途中にも楽しみはたくさんある。


 窓の外から、夜の風がそっと吹き込んできた。


 僕は記録の束を机の端に置き、明日の朝を楽しみにしながら、寝る支度を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。