第45話 お手伝いのごほうび
畑の芽が少しずつ大きくなるにつれて、僕の朝の仕事も増えてきた。
芽の様子を見て、土が乾いていないか確かめる。必要なら水を運び、周りに生えている草を抜く。それから記録をつける。
どれも一つひとつは小さな仕事だけれど、全部終えると、朝の時間はあっという間に過ぎてしまう。
その日も僕は、朝畑の手入れを終えてから家に戻った。
「母さん、終わったよ!」
「ありがとう。ちょうどよかったわ」
母さんは台所で籠を整理していた。
「この野菜を洗ってくれる? そのあと、乾いた布を物置から持ってきてほしいの」
「うん!」
僕は野菜を洗い、籠に並べた。畑の水やりとは違って、野菜を傷つけないように扱う必要がある。土を落とそうとして強くこすりすぎると、葉が破れてしまうこともある。
母さんに教えてもらいながら、僕は一つずつ丁寧に洗った。
そのあと物置から布を持ってきて、指定された場所へ置く。これで頼まれた仕事は終わりだ。
「よくできました」
母さんが僕の頭を撫でてくれた。
「今日は頑張ったから、お昼のあとに焼き菓子を作るのを手伝ってくれる?」
「焼き菓子?」
「ええ。エマたちにも少し分けてあげましょう」
僕は思わず笑顔になった。
母さんが作る焼き菓子は、甘くて香ばしい。手伝えるのも嬉しいけれど、みんなで食べられるのがもっと嬉しかった。
昼食のあと、僕は母さんと一緒に台所へ立った。
材料を量り、粉を混ぜ、母さんが用意した生地を小さく分ける。僕の手では形が少し不揃いになってしまったけれど、母さんは気にしなくていいと言ってくれた。
「形が違っても、ちゃんと焼ければおいしいわ」
「本当?」
「もちろん。全部同じ形にするのは、慣れてからでいいのよ」
僕は丸いものや少し平たいものを並べていった。
焼き上がるまでの間、甘い匂いが台所に広がった。僕は何度も炉のほうを見てしまい、そのたびに母さんに笑われた。
「そんなに見ても、早く焼けるわけじゃないわよ」
「分かってるけど、いい匂いがするんだもん」
やがて焼き菓子ができあがった。
表面はきれいな色に焼けていて、端のほうは少しだけ香ばしい。僕が作ったものも、形は不揃いだけれど、ちゃんと焼き上がっていた。
母さんは少し冷ましてから、籠に並べてくれた。
ちょうどそのころ、エマたちが遊びに来た。
「今日は何をしてたの?」
エマが台所を覗き込む。
「焼き菓子を作ったんだ。僕も手伝ったんだよ」
「すごい!」
トーマは籠の中を見て、目を輝かせた。
「これ、食べていいの?」
「冷めてからね」
母さんの言葉に、トーマは残念そうに籠から手を引っ込めた。
みんなで外の長椅子に座り、冷めた焼き菓子を分けてもらった。
「おいしい!」
エマが笑顔になった。
「リオが作ったのはどれ?」
「この丸いのと、ちょっと平たいの」
僕が指さすと、トーマがすぐに平たいほうを手に取った。
「じゃあ、これをもらう!」
「形で選んだの?」
「いや、なんとなく!」
カイルは丸い焼き菓子を一口食べてから、頷いた。
「ちゃんとおいしいよ。形も、これはこれでいいと思う」
僕は嬉しくなった。
畑仕事をしていると、失敗することもある。水をこぼしたり、草を抜くのに時間がかかったり、絵がうまく描けなかったり。それでも、少しずつできることが増えていく。
焼き菓子も同じなのかもしれない。
最初から上手にできなくても、手伝いながら覚えていけばいい。
食べ終えたあと、僕たちは畑を見に行った。芽は昨日と大きく変わっていないように見えたけれど、葉の形を比べると、少しずつ開いているものがあった。
「今日の記録にも、何か書く?」
エマが尋ねた。
「もちろん。芽のことと、今日は焼き菓子を作ったことも書こうかな」
「畑の記録なのに?」
トーマが首を傾げる。
「畑とは関係ないけど、今日あったことだからね。別の紙に書いておこうと思う」
カイルが頷いた。
「畑の記録と、毎日の記録を分けるのはいい考えだね」
家へ戻ってから、僕は二枚の紙を用意した。一枚には芽の様子を、もう一枚には焼き菓子を作ったことを書いた。
今日の仕事を終えて食べた焼き菓子は、いつもよりおいしく感じられた。
お手伝いをしたごほうびは、甘い焼き菓子と、みんなの笑顔。
明日も、できることを一つずつ頑張ろう。




