第41話 昨日と今日の違い
朝畑に芽が出そろってから、僕は毎朝、畑を見るのが楽しみになっていた。
朝食を食べ終えると、顔を洗い、靴を履いて外へ出る。木札の「朝畑」という文字を確かめてから、種を植えた場所を順番に見ていく。それが、いつの間にか僕の日課になっていた。
今朝も、僕はいつものように畝の前にしゃがみ込んだ。
「昨日より大きくなってる……かな?」
芽の葉は、少しだけ開いているように見えた。
昨日も同じように見たはずなのに、はっきりとした違いが分からない。葉の先が伸びた気もするし、昨日から変わっていないような気もする。
僕は首を傾げた。
毎日見ていれば成長が分かると思っていたけれど、毎日少しずつ変わるものを見分けるのは、思っていたより難しい。
「何を唸ってるんだ?」
後ろから声をかけられ、振り返ると、父さんのガイルが立っていた。
「芽が大きくなったか、確かめてたんだ」
「大きくなっていたか?」
「たぶん。でも、よく分からない」
父さんは僕の隣にしゃがみ、芽を眺めた。
「毎日見ていると、変化に気づきにくいこともある。昨日の姿を覚えているつもりでも、案外曖昧なものだからな」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「記録をつけているだろう。絵を描いて、何日か前のものと比べてみたらどうだ?」
僕は、家に置いてある記録の紙を思い出した。
芽を見つけた日には、小さな絵を描いた。そのあとも何度か描き足していたけれど、全部を並べて比べたことはなかった。
「やってみる!」
僕は家へ戻り、記録の紙を持ってきた。
最初に芽を見つけた日の絵は、葉が二つ、茎も短く描かれている。今日の芽は、葉が少し開き、茎も前より長く見えた。
並べてみると、違いは思ったよりはっきりしていた。
「本当だ。大きくなってる!」
「よかったな。ただし、絵はお前が描いたものだから、正確な大きさまで分かるわけじゃないぞ」
父さんは笑った。
「次からは、同じくらいの大きさで描くようにすると、比べやすくなるかもしれないな」
僕は頷き、今日の絵を描き直した。
そこへ、エマたちがやってきた。
「リオ、何をしてるの?」
「芽の絵を比べてたんだ。毎日見てると分からないけど、何日か前の絵と比べると大きくなってるんだよ」
僕が説明すると、カイルは興味を持ったように紙を覗き込んだ。
「なるほど。日付も書いてあるから、どのくらいの間に変化したか分かるね」
「僕の絵も比べてみよう!」
トーマは自分の記録を取りに行こうとしたが、途中で足を止めた。
「……あれ。僕、芽が出た日の絵しか描いてなかった」
「それなら、今日描けばいいじゃない」
エマが笑った。
「そうだな。今から描けば、次に比べられるもんな!」
トーマはすぐに納得し、記録を取りに帰った。
僕たちはそれぞれの畑の芽を確認して、今日の絵を描くことにした。
絵が得意な人はいなかった。僕の絵は少し歪んでいたし、トーマの絵は相変わらず実物より大きい。それでも、日付を書いておけば、あとで見返したときに役立つはずだ。
作業が終わるころ、カイルが自分の絵を見せてくれた。
「昨日より葉が開いている気がする」
「本当だ!」
エマも自分の絵を比べて頷いた。
トーマは自分の絵を見比べて、少し考え込んでいる。
「……僕のは、最初から大きく描きすぎたせいで、違いがよく分からない」
「次から同じくらいの大きさで描けばいいよ」
僕が言うと、トーマは真剣な顔で頷いた。
「明日はもっと上手に描く!」
昼前、僕たちは畑の様子を記録してから、それぞれの家へ戻った。
午後になっても、僕は時々、朝畑のことを思い出していた。
芽は一日で急に大きくなるわけではない。でも、少しずつ変わっている。その小さな変化を見つけるには、毎日眺めるだけでなく、前の姿と比べることも大切なのだ。
夕方、僕はもう一度だけ畑を見に行った。
朝とほとんど変わらない、小さな緑色の芽。
けれど、昨日描いた絵と今日の絵を比べれば、確かに違いがある。
僕は記録の紙を抱え、満足して家へ戻った。
明日も、また絵を描こう。
そして、いつか今の絵を見返したとき、こんなに小さかったのかと驚く日が来るといい。




