第40話 四つの畑、四つの楽しみ
翌朝、僕たちはいつもの場所に集まった。
最初に来たのはエマだった。次に僕が来て、少し遅れてトーマがやってきた。カイルは最後だったけれど、今日はいつもより早足だった。
「みんな、角の畑を見に行こう」
カイルが言った。
「何かあったの?」
僕が尋ねると、カイルは少しだけ笑った。
「まだ分からない。でも、昨日の夕方、土の表面が少し盛り上がっている場所があったんだ」
「それって……!」
僕たちは顔を見合わせた。
もしかしたら、芽が出ているのかもしれない。
角の畑に着くと、カイルは畝の端にしゃがみ込んだ。
「ここだよ」
そこには、小さな緑色の芽が見えていた。
「出てる!」
トーマが声を上げた。
「本当に出たね!」
エマも嬉しそうに笑った。
僕は、四人の畑に芽が出たことが嬉しくて、しばらく何も言えなかった。
最初に芽を見つけたのは朝畑だった。次に日なた畑、そして豆畑。最後に角の畑にも、小さな芽が顔を出した。
同じ日に種を植えたのに、芽が出る時期は少しずつ違った。畑の場所も、育てているものも違う。それでも、毎日様子を見て、必要なことを考えてきたから、こうして変化を見つけることができたのだと思う。
「これで、みんなの畑に芽が出たね」
僕が言うと、カイルは頷いた。
「まだ一つだけだけどね。これからほかの芽も出てくるかもしれない」
「そうだね。これからだよ」
エマは芽を見ながら言った。
トーマは自分の豆畑のことを思い出したようで、少し誇らしげに胸を張った。
「僕のところも、もう一つくらい出てくれないかな」
「一つでも、ちゃんと育てていけばいいじゃない」
エマが言う。
「それはそうだけど、たくさん出たら嬉しいだろ?」
「それもそうだね」
僕たちは笑った。
畑の芽を確認したあと、僕たちはそれぞれの記録を持ち寄った。
朝畑には、芽が出た日と、そのあとに増えた日が書いてある。日なた畑にも、最初の芽を見つけた記録があった。豆畑には、トーマが大きく描いた芽の絵があり、角の畑には、カイルが日付と天気を丁寧に書き込んでいた。
「こうして並べると、違いが分かるね」
カイルが言った。
「朝畑は早く芽が出たけど、角の畑は少し遅かった。けれど、これだけでどっちがいいとは言えないと思う」
「どうして?」
僕が尋ねると、カイルは記録を指さした。
「植えた種も、畑の場所も違うからだよ。条件が違うのに、芽が出た日だけを比べても、全部は分からないでしょう?」
僕は記録を見直した。
確かに、芽が出るまでの日数だけを比べても、それだけで何かが決まるわけではない。これからどのくらい育つか、葉がどれくらい増えるか、収穫できるか。まだ分からないことがたくさんある。
「じゃあ、これからも記録を続けよう」
僕が言うと、みんなが頷いた。
その日は、四つの畑を順番に回り、芽の周りの草を取り除いたり、土の乾き具合を確かめたりした。水をあげるかどうかは、それぞれの畑の様子を見て決める。必要のない場所には、無理に水をあげない。
作業が終わるころには、太陽が高くなっていた。
「お腹すいたなあ」
トーマが言った。
「畑仕事をすると、お腹がすくよね」
エマが笑う。
「じゃあ、今日はここまでにして、お昼にしよう」
カイルが提案した。
僕たちはそれぞれの家へ帰る前に、もう一度だけ自分の畑を振り返った。
小さな芽が土の上に立っている。まだ葉も少なく、風が吹けば揺れてしまいそうなほど頼りない。
でも、昨日までは土の中にあったものが、今は目に見える場所にある。
それだけで、畑の景色は大きく変わったように感じられた。
家に戻ると、母さんが昼食の支度をしていた。
「今日はどうだった?」
「カイルのところにも芽が出たよ。これでみんなの畑に芽が出たんだ」
「それはよかったわね」
「でも、まだまだ小さいんだ。これから草を取ったり、水をあげたりして、ちゃんと育てないと」
母さんは微笑んだ。
「そうね。芽が出たら終わりじゃないものね」
僕は頷いた。
種を植えたときは、芽が出ることばかり考えていた。芽が出れば、それで一つの目標が達成できると思っていた。
でも、実際にはそこから先も続いていく。
水のこと。草のこと。土のこと。天気のこと。
そして、毎日畑を見に行くこと。
食事を終えたあと、僕は机に向かって記録の紙を開いた。
今日の日付を書き、その下に「四つの畑すべてで芽を確認した」と書き加える。
少し考えてから、もう一文を書いた。
「これからも、みんなで畑を見ていく」
それは、今日の僕が一番書き残しておきたいことだった。
畑はそれぞれ違う。育てているものも、土の様子も、芽が出た日も違う。
それでも、僕たちは一緒に畑を見て、分からないことを話し合い、少しずつ覚えていける。
明日になれば、また何か変わっているかもしれない。
葉が少し開いているかもしれないし、新しい芽が出ているかもしれない。反対に、昨日と何も変わっていないように見える日もあるだろう。
それでも、僕は明日も畑へ行く。
朝畑の木札を確かめて、小さな芽を眺めて、必要な仕事をする。
そのあとで、エマたちの畑も見に行こう。
まだ収穫には遠いけれど、僕たちの畑は、今日も少しずつ育っている。
窓の外では、午後の風が畑の草を揺らしていた。
僕は記録の紙を丁寧に畳み、次に書き足す日を楽しみにしながら、机の上に置いた。




