第38話 芽を守るために
芽が出てから数日が過ぎた。
朝畑では、最初に見つけた二つの芽のほかにも、小さな緑色の芽がいくつか顔を出していた。全部が同じ大きさではない。先に出たものは少し葉が開き、あとから出たものはまだ小さい。
毎朝畑へ行くたびに、僕はどこに新しい芽が出たのかを探すようになっていた。
今日は、芽の周りに生えている草が気になった。
昨日まではあまり目立たなかったのに、今朝見ると、芽の近くに細い草が何本か生えている。
「これ、抜いたほうがいいのかな」
僕はしゃがみ込んだ。
草を抜けば、畑がきれいになる。でも、根が芽の近くまで伸びていたら、抜くときに作物を傷つけてしまうかもしれない。
どうしようか迷っていると、母さんが畑へやってきた。
「何をしているの?」
「芽の近くに草が生えてるんだ。抜こうと思ったけど、芽を傷つけそうで」
母さんは僕の隣にしゃがんだ。
「よく気がついたわね。芽が小さいうちは、草を抜くときも気をつけないといけないの」
「じゃあ、抜かないほうがいい?」
「作物の邪魔になりそうな草なら取り除くけれど、無理に引っ張らないこと。根元の土を押さえながら、ゆっくり抜くのよ」
母さんは、芽から少し離れた草を一本選び、根元の土を指で押さえながら抜いてみせた。
草は、思ったより簡単に抜けた。
「こうすれば、周りの土が大きく動かないでしょう?」
「本当だ」
「ただし、芽に近すぎる草は、もう少し様子を見てもいいわ。大事なのは、畑をきれいにすることだけじゃなくて、育てたいものを守ることだから」
僕は母さんのやり方を真似して、芽から少し離れた草を一本ずつ抜いた。急がず、土が大きく動かないように気をつける。
時間はかかったけれど、作業が終わるころには、芽の周りが少しすっきりしていた。
そのあと、エマたちがやってきた。
「今日は草取り?」
エマが畑を覗き込んだ。
「うん。でも、芽の近くは気をつけないといけないんだって」
「私のところにも草が生えてたよ。全部抜いちゃったけど、大丈夫かな」
「芽を傷つけていなければ大丈夫だと思うけど、心配なら家の人に見てもらおう」
カイルが言った。
エマは少し不安そうだったが、すぐに自分の畑へ戻って確認してみることにした。
僕たちも一緒に日なた畑へ行くと、確かに芽の周りに土を掘った跡があった。でも、芽そのものは倒れていない。葉も残っている。
「よかった……」
エマはほっとしたように息を吐いた。
「次からは、もう少しゆっくりやるよ」
「僕も気をつけよう」
トーマは豆畑の土を見ながら言った。
「まだ芽が出てない場所もあるけど、草は生えてくるんだな」
「作物が育つ前から、草は生えてくるからね」
カイルはそう答えた。
それから僕たちは、畑の周りを見て回った。作物の邪魔になりそうな草を取り除き、芽が倒れていないかを確かめる。畑の外側にある草は、無理に全部抜かず、作物に近いところを中心に手入れした。
昼前、父さんが作業の様子を見に来た。
「ずいぶん丁寧にやっているな」
「芽を傷つけないようにしてるんだ」
「いい心がけだ。ただ、時間をかけすぎて疲れないようにな。毎日少しずつやればいい」
父さんの言葉に、僕は頷いた。
僕は、畑を一度に全部きれいにしようとしていたのかもしれない。けれど、毎日少しずつ手入れをすれば、無理をする必要はない。
畑仕事は、今日だけで終わるものではないのだ。
午後、僕は記録の紙に、草取りをしたことを書いた。
「芽の周りの草を抜いた。根元の土を押さえて、ゆっくり抜くとよい」
それから、芽の絵も描き直した。最初に描いた絵より、葉が少しだけ大きくなっているように見える。
比べてみると、本当に少しだけ違っていた。
大きくなったといっても、ほんのわずかだ。でも、毎日見ていたからこそ気づけた違いだと思う。
夕方、僕は朝畑の木札を確認してから家へ戻った。
芽を守るためには、水をあげるだけでは足りない。草のことも、土のことも、天気のことも考えなくてはいけない。
それは大変なことのようにも思えた。
でも、明日も畑を見に行けば、今日より少しだけ分かることが増えるはずだ。
僕は記録の紙を畳み、机の上に置いた。
小さな芽を守るためにできることを、明日も一つずつ覚えていこう。




