第37話 みんなの芽
朝畑に芽が出た翌日、僕はいつもより早く目を覚ました。
昨日見つけた小さな緑色の芽。夜の間に枯れてしまったり、何かに食べられてしまったりしていないだろうか。
そんなことを考えていたら、布団の中でじっとしていられなくなった。
朝食を食べ終えると、僕はすぐに畑へ向かった。
木札は倒れていない。土も昨日と大きく変わっていない。
そして、芽はそこにあった。
「よかった……」
思わず声が漏れた。
小さな芽は昨日と同じ場所で、土の上に葉を広げていた。まだ頼りない姿だけれど、ちゃんとそこにある。
その少し離れたところにも、緑色のものが見えた。
「えっ、もう一つ?」
近づいて確かめると、別の種を植えた場所にも、小さな芽が顔を出していた。
僕は嬉しくなったが、今度は落ち着いて家へ戻った。
父さんに見てもらい、芽の位置を確認する。父さんは、土の上に出てきたばかりの芽は傷つきやすいから、むやみに触らないようにと教えてくれた。
「これから、ほかの場所にも出てくるかもしれないな」
「全部出てくるかな?」
「それは分からない。種にも、それぞれ違いがあるからな」
父さんはそう言った。
同じ日に植えた種でも、同じ日に芽が出るとは限らない。育ち方も少しずつ違うらしい。
僕はそのことを記録に書き足した。
しばらくして、エマたちが集まってきた。
「リオのところ、芽が増えたって本当?」
エマが聞いた。
「うん。二つになったよ」
「すごい!」
トーマは自分の畑へ向かう前に、僕の芽を確かめた。
「僕のところも出てるといいな」
「見に行こうよ」
僕たちは順番に、それぞれの畑を回った。
最初にエマの日なた畑へ行くと、畑の端に小さな芽が一つ出ていた。
「やった!」
エマは声を上げたあと、慌てて口を押さえた。
「大きな声を出したら、芽がびっくりするかな?」
「そんなことはないと思うけど」
カイルが笑った。
「でも、気持ちは分かるよ」
エマはしゃがみ込んで、芽をじっと見つめた。
「昨日はなかったのに、今日はあるんだね」
「昨日は土の下にいたんだろうな」
僕が言うと、トーマが頷いた。
「僕の畑も、早く出てほしいなあ」
トーマの豆畑には、まだ芽が見えなかった。トーマは少し肩を落としたけれど、カイルがすぐに声をかけた。
「まだ一日違うだけだよ。種の種類も違うんだから、同じように育つとは限らない」
「そうだよね」
トーマはもう一度畑を眺め、それから顔を上げた。
「じゃあ、明日も見に来る!」
最後にカイルの角の畑を確認した。こちらも、まだ芽は見つからなかった。
カイルは記録の紙を取り出して、種を植えた日と雨が降った日を確かめていた。
「芽が出るまでの時間を比べるなら、種の種類も書いておいたほうがよさそうだね」
「そうしたら、来年はもっと分かりやすくなるかな?」
「少なくとも、今年のことは忘れずに済むよ」
僕たちはそれぞれの記録に、芽が出たかどうかを書き足した。
朝畑には二つの芽。日なた畑には一つ。豆畑と角の畑には、まだ芽が出ていない。
こうして並べると、同じように種を植えたつもりでも、畑ごとに違いがあることが分かる。
昼ごろ、僕たちは家の前で休憩した。
母さんが水を用意してくれたので、みんなで飲みながら畑の話をする。
「芽が出たら、毎日大きくなるのかな?」
エマが聞いた。
「どうだろう。毎日見ても、あまり変わらないかもしれない」
僕は朝と夕方に見た芽を思い出した。確かに、今日一日で大きくなったようには見えなかった。
「でも、何日かたってから比べたら、違いが分かるかもしれないよ」
カイルが言った。
「記録に絵を描いておけばいいんじゃない?」
トーマが提案した。
それはいい考えだと思った。芽が出た日の絵を描いて、何日かあとにまた描く。そうすれば、どれくらい成長したのか分かりやすいはずだ。
午後、僕は紙に芽の絵を描いてみた。
葉っぱは二つ。茎は細くて、土から少しだけ顔を出している。絵にすると、思った以上に小さい。
でも、これが僕の朝畑で最初に見つけた芽だ。
いつか葉が増えたとき、この絵を見返せば、今の小ささを思い出せるだろう。
夕方、エマが帰る前に、僕たちは明日も畑を見に行く約束をした。
「トーマのところにも芽が出るといいね」
「出るさ。きっとな!」
トーマはそう言って、豆畑のほうを振り返った。
僕も朝畑を見た。
小さな芽が二つ、夕方の光の中で静かに立っている。
みんなの畑にも、これから少しずつ緑が増えていくのだろう。
その様子を一緒に見ていけることが、僕にはとても楽しみだった。




