↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/86

第34話 雨上がりの土

 翌朝、目が覚めて最初に聞こえたのは、鳥の声だった。


 雨音はもうしない。窓の外には雲が残っていたけれど、その隙間から明るい光が差し込んでいた。


「今日は畑に行けそうだ!」


 僕は着替えを済ませると、朝食を食べてから外へ出た。


 雨上がりの空気は少し冷たく、土と草の匂いがいつもより強く感じられた。道の端にはまだ水たまりが残っている。靴が汚れないように気をつけながら、僕は畑へ向かった。


 畑に着いて、まず目印の枝を確かめる。


 倒れていない。種を植えた場所も、昨日見たときと大きく変わってはいないようだった。


 ただ、土は水を含んで黒っぽくなり、畝の表面には小さな水の跡が残っている。


「これが雨上がりの畑か」


 僕はしゃがみ込んだ。


 土を触りたい気持ちはあったけれど、昨日父さんから、濡れた土を必要以上に踏んだり、かき混ぜたりしないようにと言われていた。


 だから、今日は目で見るだけにする。


「リオ、おはよう!」


 エマの声がした。


 振り返ると、エマとトーマ、カイルが畑の入り口に立っていた。


「雨、止んだね」


「うん。これなら、みんなの畑も見られそうだ」


 カイルが言った。


 僕たちはまず、僕の畑の様子を見てから、エマの畑へ向かった。続いてトーマの畑、カイルの畑も確認する。


 どこも土は濡れていたが、目印は残っていた。水がたまりやすい場所は少し違っていて、カイルの畑は思ったより早く水が引いているように見えた。


「やっぱり、場所によって違うんだね」


 エマが言った。


「日当たりも関係するんだろうな」


 カイルは畑の周囲を見回していた。


「それに、畝の高さも違うよ。うちの畑は、少し高めにしてあるから」


「そうなの?」


「父さんがそうしてくれたんだ。水がたまりすぎないようにするためだって」


 僕は自分の畑を思い浮かべた。父さんが土を盛って畝を作ってくれたけれど、どうしてその高さなのかまでは考えたことがなかった。


 畑はただ平らにすればいいわけではないらしい。


 そのとき、トーマが畑の端を指さした。


「これ、雑草かな?」


 そこには、小さな緑色の葉がいくつか見えていた。


 僕たちは一斉に近づこうとしたが、カイルが手を伸ばして止めた。


「待って。種を植えた場所じゃないから、雑草かもしれないけど、まだ分からないよ」


「でも、芽っぽいよ?」


「植えた種と同じものかどうか、確かめないと」


 確かに、その緑色の葉が何なのか、僕たちには分からなかった。


 父さんを呼んで見てもらうと、それは畑の端に自然に生えた草の一種だと教えてくれた。


「畑に生えてくる草は、全部が悪いわけじゃない。ただ、育てたい作物の邪魔になるものは取り除く必要がある」


「じゃあ、これは抜くの?」


「今なら抜いてもいいが、作物を植えた場所を間違えないようにな」


 父さんが見てくれている間に、僕たちは畑の端に生えていた草を取り除いた。濡れた土は柔らかく、草の根も抜きやすかった。


 でも、夢中になって抜いていると、エマが「あっ」と声を上げた。


「これ、残しておいたほうがいい草だったかも」


 エマが持っているのは、細い茎の草だった。


 父さんはそれを見て、少し考えてから答えた。


「それは畑の外側に生えているものだな。作物の邪魔にならない場所なら、無理に全部抜かなくてもいい。どこまで手を入れるかも、畑を管理する人が考えることだ」


 僕たちは顔を見合わせた。


 草は見つけたら全部抜けばいいと思っていた。でも、そうではないらしい。


 畑の外側まできれいにしようとして、時間を使いすぎる必要もない。大事なのは、育てたい作物がきちんと育つようにすることだ。


「畑仕事って、考えることが多いね」


 トーマが呟いた。


「でも、少しずつ分かってきた気がする」


 僕が言うと、エマも頷いた。


 昼前、空はさらに明るくなった。日差しが畑を照らし、濡れた土が少しずつ乾いていく。


 僕はもう一度、種を植えた場所を眺めた。


 まだ芽は見えない。


 けれど、昨日は雨の音を聞きながら、畑がどうなっているのか心配していた。今日は実際に様子を見て、土の違いや水のたまり方を知ることができた。


 記録の紙にも、書くことが増えそうだ。


 家に帰ると、僕は濡れた靴を玄関で脱ぎ、手を洗ってから紙を広げた。


「雨上がり。畑の土は濡れていた。畝の高さや日当たりによって、水の引き方が違った」


 そこまで書いて、僕は木炭を置いた。


 昨日より少しだけ、畑のことを知ることができた。


 芽が出る日はまだ分からない。でも、芽が出るまでにも、見つけられることはたくさんある。


 僕はそう思いながら、次の記録を書くために紙を丁寧に畳んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。