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第31話 朝一番の畑

 朝、窓から差し込む光が顔に当たって、僕は目を覚ました。


 いつもなら、もう少し布団の中でごろごろしていたいと思う時間だ。でも今日は違った。目を開けた瞬間、昨日のことを思い出したからだ。


 エマとトーマ、カイルと一緒に、それぞれの畑に種を植えた。


 土をならして、小さな穴を作って、種を置いて、優しく土をかぶせる。最後に水をあげて、これで本当に芽が出るのだろうかと、みんなで畑を眺めた。


 あれから一晩。


 もしかしたら、もう何か変わっているかもしれない。


「リオ、起きてるの?」


 扉の向こうから母さんの声がした。


「起きてる!」


「それなら、顔を洗っておいで。朝ご飯が冷めちゃうわよ」


「すぐ行く!」


 僕は勢いよく起き上がった。寝間着を着替え、顔を洗って、居間へ向かう。食卓には焼いたパンと野菜のスープ、それから昨日の夕食の残りを使った炒め物が並んでいた。


「今日はずいぶん早いな」


 父さんがパンをちぎりながら言った。


「畑を見に行きたいんだ」


「昨日種を植えたばかりだろう。そんなにすぐ芽は出ないぞ」


「分かってるけど、もしかしたらって思って」


「気持ちは分かるけどね。まずはご飯を食べなさい」


 母さんにそう言われ、僕は椅子に座った。


 朝ご飯を食べ終えると、兄さんのアルドは農具を確かめ、次兄のノアは水桶を運ぶ手伝いを始めた。妹のリナは椅子の上でパンを両手に持ち、まだ半分眠そうな顔をしている。


「リオ、どこに行くの?」


「畑!」


「わたしも!」


「リナは朝ご飯を食べてからね」


 母さんの言葉に、リナはパンを見下ろした。それから急いで口に運ぼうとして、頬をいっぱいに膨らませた。


「慌てなくても畑は逃げないぞ」


 父さんが笑うと、リナはむっとした顔をした。


 食事の後、僕は家の畑へ向かった。


 昨日種を植えた場所は、土の色も形も昨日とほとんど変わらない。しゃがみ込んで、顔を近づけてみる。小さな土の粒が並び、ところどころに細い草の跡が見える。


 芽らしきものは見当たらなかった。


「やっぱり、まだか」


 少し残念だったけれど、考えてみれば当然だ。種を植えてから、まだ一晩しか経っていない。


 僕は土に触れようとして、手を止めた。


 芽が出たか確かめたくても、土を掘り返したら種を傷つけてしまうかもしれない。父さんが、植えたものはすぐに引っ張ったり、掘り返したりしてはいけないと言っていた。


 だから今日は、見るだけにした。


「リオ、何してるの?」


 振り返ると、ノアが水桶を持って立っていた。


「芽が出たか見てたんだ」


「出てたか?」


「出てない」


「だろうなあ。昨日植えたばかりだし」


 ノアはそう言いながら、隣にしゃがんだ。


「でも、土の下では何か始まってるかもしれないぞ」


「本当?」


「知らないけど」


「知らないのかよ!」


 二人で笑った。


 そこへアルドもやってきた。兄さんは畑の様子を一通り見てから、昨日種を植えた場所を確かめた。


「目印を立てておくといい。どこに何を植えたか、分からなくなるからな」


 そう言って、畑の端に細い木の枝を立ててくれた。枝には、種の種類が分かるように小さな印をつけてある。


「これなら、間違えて踏むこともないね」


「そういうことだ。畑仕事は、植えるだけじゃないんだぞ」


 アルドは得意そうに言った。


 しばらくすると、エマたちもやってきた。


「リオ、芽は出た?」


 エマが真っ先に聞いた。


「まだだよ」


「こっちも出てなかった」


 トーマが肩をすくめる。


「カイルのところも?」


「もちろん。昨日の今日で出ていたら、むしろ驚くよ」


 カイルは落ち着いた声で答えたけれど、彼も何度も畑を見に行ったらしい。靴のつま先に、乾いた土がついていた。


 僕たちは四人で、それぞれの畑を見て回った。土が乾きすぎていないか、種を植えた場所が分かるか、踏み荒らされていないか。昨日は種を植えることで頭がいっぱいだったけれど、今日は気になることが次々と見つかった。


「明日も見に来ようよ」


 エマが言った。


「明日も?」


「うん。毎日見たら、いつ芽が出たか分かるでしょう?」


 なるほど、と思った。


 一日だけ見ても、いつ変化したのかは分からない。でも毎日見ていれば、少しずつ違いに気づけるかもしれない。


「じゃあ、明日もここで集合だな」


 トーマが言い、カイルも頷いた。


 約束をして、みんなはそれぞれの家へ戻っていった。


 僕も家の畑をもう一度眺めた。まだ何も見えない土。でも、その下には昨日植えた種がある。


 今は何も変わっていないように見えても、明日も同じとは限らない。


 そう思うと、いつもの畑が少しだけ違って見えた。


 明日の朝、僕はまたここへ来るだろう。


 その次の日も、そのまた次の日も。


 芽が出るまでの時間も、畑仕事の一部なのかもしれない。


 そんなことを考えながら、僕は土についた小さな草を一本、そっと抜いた。


 種を植えた場所には触れずに。

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