第27話 雨上がりの畑
翌朝。
リオが窓を開けると、昨日までの雨が嘘のように、明るい光が差し込んできた。
空にはまだ雲が残っていたが、雨は止んでいる。
庭の草には水滴がつき、道の土はところどころ黒く濡れていた。
「晴れた!」
リオは思わず声を上げた。
すぐに着替えて階段を下りると、台所では母が朝食を準備していた。
「母さん、雨が止んだよ!」
「ええ、そうね。お父さんも畑を見に行く準備をしているわよ」
その言葉を聞いて、リオは急いで朝食を食べた。
いつもより少し早く食べ終えると、父のガイルと一緒に家を出る。
村の道には、雨上がり特有の匂いが漂っていた。
土の匂い。
濡れた草の匂い。
どこかの家から漂う、朝食を作る匂い。
リオは大きく息を吸い込んだ。
「なんだか、いつもと匂いが違うね」
「雨が降ったあとは、土や草の匂いが強く感じられることがあるからな」
ガイルはそう答えた。
畑に着くと、まずは通路の状態を確認した。
雨でぬかるんでいる場所があり、歩くと靴が少し沈む。
「父さん、ここ歩きにくいね」
「そうだな。まだ土が柔らかいから、必要以上に踏み荒らさないようにしよう」
父は畑の外側を回りながら、作物の様子を確かめていった。
リオもその後ろをついていく。
芽が出た場所に着くと、リオはすぐにしゃがみ込んだ。
「大丈夫かな……」
昨日の雨で、芽が倒れてしまっていないか心配だった。
しかし、土から出た小さな葉は、ちゃんとそこに残っていた。
「よかった!」
リオは安心したように息を吐いた。
「昨日は雨が降っていたけど、芽はちゃんと育っているんだね」
「ああ。ただ、雨が降ったからといって、必ずよく育つわけでもない。降り方や土の状態によって違うからな」
ガイルは芽の周りを確認した。
水が溜まっている場所はないか。土が流れてしまっていないか。葉に傷みがないか。
いつもより時間をかけて見て回る。
リオは、その様子を真剣に見つめていた。
「雨が降った次の日は、こうやって確認するんだね」
「そうだ。畑の様子は、天気によって変わるからな」
その後、二人は畑の端へ向かった。
通路の一部に水が溜まっていたため、父は水が流れやすいように周囲の土を少し整えた。
リオは小さな道具を使い、父の指示に従って土を寄せた。
大きな作業ではない。
けれど、昨日までとは違う場所を見つけ、必要な手入れをすることができた。
リオは少しだけ誇らしかった。
作業をしていると、畑の外から声がした。
「おーい、リオ!」
トーマだった。
その隣にはカイルもいる。
「何してるの?」
「雨のあとの畑を見てるんだ」
リオが答えると、カイルが頷いた。
「俺たちの畑も見ておこうと思ってさ」
「そうだね。土がどうなってるか気になるし」
トーマは畑を覗き込んだ。
「雨が降ったら、水やりしなくていいんだろ?」
「すぐには必要ないかもしれないけど、土の状態を見て決めるんだって」
「なるほど……」
トーマは真面目な顔をして頷いた。
その様子がおかしくて、リオは笑ってしまった。
「何だよ!」
「ううん。トーマも畑のことを考えるようになったんだなって」
「俺だって考えるぞ!」
カイルも笑った。
しばらく三人で話していたが、それぞれの家で手伝いがあるため、長くは遊べなかった。
トーマたちは自分たちの畑を見に行き、リオも父の手伝いに戻った。
昼前には、確認しておきたい場所を一通り見終えた。
ガイルは道具を片付けながら言った。
「今日は水やりをしなくていい場所が多そうだな」
「雨が降ったから?」
「ああ。だが、明日も同じとは限らない。毎日様子を見て、必要なことを考えるんだ」
リオは頷いた。
昨日は雨で畑に入れなかった。
今日は雨上がりの畑を確認した。
明日はまた、違う仕事があるかもしれない。
畑は毎日同じように見えて、少しずつ変化している。
家に帰ると、母が昼食を用意して待っていた。
「畑はどうだった?」
「芽は大丈夫だったよ。雨が降ったから、土の中も湿ってた」
「それはよかったわね」
ミーナは安心したように笑った。
午後、リオは広場へ向かった。
エマたちも集まっていて、雨上がりの道を歩いたり、乾き始めた地面に枝で絵を描いたりして遊んでいた。
「昨日は外で遊べなかったから、今日はいっぱい遊ぼう!」
エマが言う。
「賛成!」
トーマが手を上げた。
リオも笑顔で頷いた。
雨が降る日もあれば、晴れる日もある。
畑の仕事ができない日もあれば、友達と遊べる日もある。
どちらも、村で暮らす毎日の一部だった。
夕方、帰り道にリオは空を見上げた。
雲の隙間から、夕日の光が差し込んでいる。
明日も晴れるだろうか。
そう考えながら、リオは家へ帰っていった。




