第23話 エマの小さな畑
ある日の午後、リオが広場へ向かうと、エマが一人で木の枝を拾っていた。
「エマ、何してるの?」
声をかけると、エマは手を止めて振り返った。
「あ、リオ。ちょっとね」
「何を集めてるの?」
「これを使って、家の裏に小さな畑を作ろうと思っているの」
「畑?」
リオは驚いた。
エマの家にも、もちろん野菜を育てている場所はある。しかし、エマが自分から畑を作るという話は初めて聞いた。
「何を植えるの?」
「まだ決めてないの。お母さんに、少しだけ好きなものを育ててもいいって言われたから」
「へえ、いいなあ」
「リオも手伝ってくれる?」
「もちろん!」
リオはすぐに頷いた。
二人は拾った枝をまとめ、エマの家へ向かった。
家の裏には、小さな空き地があった。大人が使う畑ほど広くはないが、子供が作物を育てるには十分な場所に見える。
エマの母親が、二人を迎えてくれた。
「リオ君、いらっしゃい。エマの畑作りを手伝ってくれるの?」
「はい!」
「ありがとう。でも、あまり無理をしないようにね」
そう言って、母親は小さな鍬と籠を用意してくれた。
エマは空き地の真ん中に立ち、しばらく考え込んだ。
「まず、どこから始めればいいのかな」
「草を取って、土を耕すんじゃないかな」
リオが答える。
「リオ、詳しいね」
「父さんがやってるのを見たんだ」
「じゃあ、教えて」
リオは少し困った。
父の仕事を見てはいたが、自分が最初から最後まで説明できるわけではない。
「えっと……まずは、草を取るところからかな」
二人はしゃがみ込み、空き地に生えていた草を抜き始めた。
根が浅い草は簡単に抜けたが、深く伸びたものはなかなか抜けない。
「うーん、取れない!」
エマが力を込める。
草は少し動いただけで、抜ける気配がなかった。
「根っこが残ってるのかも」
リオは近くの土を少し掘ってみた。
すると、細い根が土の中へ伸びていた。
「本当だ。こんなに伸びてる」
「どうすればいいの?」
「父さんなら、道具を使ってたよ」
二人は母親に頼んで、小さな道具を借りてきた。土を少しずつ崩していくと、ようやく草を抜くことができた。
「やった!」
エマが草を掲げた。
「これだけで、ずいぶん時間がかかったね」
「畑を作るって大変なんだなあ」
リオも頷いた。
それでも、少しずつ空き地がきれいになっていくのを見ると、二人とも嬉しくなった。
草を取り終える頃には、日が少し傾いていた。
「今日はここまでにしようか」
エマが言った。
「うん。明日は土を耕そう」
「それで、次に種を植えるのね」
「そうだね」
二人は片付けをして、家の裏から出てきた。
帰り際、エマがリオに尋ねた。
「ねえ、リオは何を植えたらいいと思う?」
「うーん……豆とか?」
「どうして?」
「種がどんな形なのか、知ってるから」
「それだけ?」
「えっと……育ったら食べられるし」
エマは笑った。
「結局、トーマと同じことを考えてるじゃない」
「そんなことないよ!」
二人は顔を見合わせて笑った。
翌日、リオは父にエマの畑について相談した。
「小さな畑を作るなら、何を植えるのがいいかな?」
「場所の広さや、日当たりにもよるな」
「日当たり?」
「日がよく当たる場所か、あまり当たらない場所かということだ」
ガイルは簡単な説明をしてから、エマの家の裏の様子を聞いた。
「そこなら、エマの家の人にも相談して、育てやすいものを選ぶといい」
「父さんが決めてくれないの?」
「俺が決めてもいいが、実際に育てるのはエマだろう?」
リオは考え込んだ。
確かに、自分が好きな作物を選んでも、エマが育てたいものとは違うかもしれない。
「そっか。エマが決めるんだね」
「ああ。困ったら相談に乗ってやればいい」
その日の午後、リオは再びエマの家を訪れた。
エマは母親と一緒に、育てたい作物について話し合っていた。
「私は豆がいいな」
「どうして?」
「大きくなったら、お母さんの料理に使えるでしょう?」
エマの答えを聞いて、リオは笑顔になった。
「いいと思う!」
「じゃあ、豆にしようかな」
小さな畑に植える作物が決まった。
まだ土を耕しただけで、種も植えていない。
それでも、エマはとても嬉しそうだった。
リオはその様子を見ながら、自分の畑のことを思い出した。
自分が育てている作物だけではなく、友達が育てる作物にも興味が湧いてきた。
同じ村の中でも、畑はそれぞれ違う。
エマの畑では、これからどんな芽が出てくるのだろう。
そのことを考えると、リオは次の日が待ち遠しくなった。




