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第21話 芽の様子を確かめる朝

 朝、リオはいつもより少し早く目を覚ました。


 窓の向こうから鳥の鳴き声が聞こえてくる。まだ家族のほとんどは起きていないようで、家の中は静かだった。


 リオは布団から起き上がると、寝間着を脱いで普段着に着替えた。それから階段を下り、台所へ向かう。


 水差しから水を飲んでいると、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。


「リオ? もう起きていたのか」


 声の主は父のガイルだった。


「おはよう、父さん」


「ああ、おはよう。ずいぶん早いな」


「畑を見に行きたいんだ」


 リオがそう答えると、ガイルは少しだけ笑った。


「昨日も見に行っただろう?」


「うん。でも、今日も大きくなっているかもしれないから」


「なるほどな。それなら、朝食を食べてから一緒に見に行くか」


「本当?」


「ああ。ただし、芽を見るだけで一日が終わるわけじゃないぞ」


「分かってるよ」


 リオは胸を張った。


 もっとも、父の言う通りだった。畑には芽を見る以外にも仕事がある。水やりが必要な場所もあれば、雑草を取り除かなければならない場所もある。


 それでも、リオにとっては、種から出てきたばかりの芽がどれほど成長したかを確かめることが、今の一番の楽しみだった。


 やがて母のミーナが起きてきて、朝食の準備を始めた。


 焼いたパンと野菜のスープ。それに、昨日の夕食で残った豆を煮直したものが食卓に並ぶ。


 少し遅れて長兄のアルドと次兄のノアもやってきた。


「リオ、今日も芽を見に行くのか?」


 アルドが聞いた。


「うん!」


「飽きないなあ」


 ノアは椅子に座りながら、呆れたように笑った。


「だって、毎日変わるかもしれないじゃん」


「毎日そんなに変わるものか?」


「昨日は少し大きくなってたよ」


「それくらいなら、俺でも分かるぞ」


「じゃあ、兄ちゃんも見に来ればいいよ」


「俺は父さんの手伝いがあるからな」


 ノアはそう言って、スープを口に運んだ。


 しかし、その表情には、ほんの少しだけ興味がありそうな様子もあった。


 朝食を終えると、リオは父と一緒に畑へ向かった。


 朝の空気はひんやりとしていて、草の上には小さな水滴が残っている。道端では虫が動き始め、遠くの家からは薪を割る音が聞こえてきた。


 村は今日も、いつも通りの朝を迎えている。


 畑に着くと、リオは真っ先に芽のある場所へ向かった。


「父さん、見て!」


「おう。昨日より葉が開いてきたな」


 土から出た芽は、昨日よりほんの少しだけ背が伸びていた。二枚の小さな葉も、以前より広がっているように見える。


 劇的な変化ではない。


 けれど、昨日と同じではなかった。


「どうして一日で大きくなるの?」


 リオが尋ねると、ガイルは芽の近くにしゃがんだ。


「土の中で根を伸ばして、水や養分を吸い上げているからだ。葉が出てくれば、日光も使って育っていく」


「根っこって、どれくらい伸びているの?」


「掘ってみれば分かるかもしれないが、今は掘らない方がいいな」


「どうして?」


「せっかく伸び始めた根を傷つけてしまうかもしれないからだ」


 リオは慌てて手を引っ込めた。


 危うく土を掘って確かめようとするところだった。


「見たいからって、何でも触ればいいわけじゃないんだね」


「そういうことだ。見守るのも仕事のうちだな」


 父の言葉を聞いて、リオは芽を見つめた。


 大きくしたいからといって、無理に手を加えてはいけない。


 それは、今まで知らなかったことだった。


 その後、二人は畑のほかの場所も確認して回った。土が乾いている場所には水を与え、芽の近くに生えていた小さな雑草を取り除く。


 リオは父の真似をしながら、慎重に作業した。


 昼前になると、畑の入り口から声が聞こえた。


「リオー!」


 振り返ると、エマがこちらへ走ってきていた。その後ろにはトーマとカイルもいる。


「何してるの?」


「畑の手伝いだよ」


「また芽を見ていたの?」


「うん。でも、今日は水やりもしたんだ」


 リオが胸を張ると、トーマが畑を覗き込んだ。


「それで、いつ食べられるんだ?」


「まだ先だってば」


「まだなのか……」


「トーマは本当に食べることばかりね」


 エマが笑う。


 カイルは芽の近くにしゃがみ込み、しばらく観察していた。


「でも、昨日より大きい気がする」


「そうでしょ?」


 リオは嬉しそうに頷いた。


 自分だけが気づいたのではない。友達にも変化が分かったことが、なんだか誇らしかった。


 しばらく四人で芽を眺めていたが、ガイルが声をかけた。


「お前たち、遊びに来たのなら、畑を踏まないようにな」


「はーい!」


 元気よく返事をした子供たちは、畑の外へ出た。


 午後は広場で遊ぶ約束をして、リオも一度家へ戻ることになった。


 夕食の席で、リオは今日の出来事を家族に話した。


「芽が大きくなってたんだ。それで、根っこは掘らない方がいいって父さんに教えてもらったよ」


「そうね。見たい気持ちは分かるけれど、今は我慢することも大切ね」


 ミーナが微笑む。


「俺も小さい頃、父さんの畑を掘り返して怒られたことがあるぞ」


 ノアが突然口を挟んだ。


「えっ、ノア兄ちゃんも?」


「土の中に何があるか気になったんだよ」


「それでどうなったの?」


「芽が一本駄目になった」


 アルドが苦笑した。


「その後、父さんに根が育つ仕組みを延々と説明されていたよな」


「余計なことを言うなよ!」


 食卓に笑い声が広がった。


 リオも笑いながら、今日のことを思い返した。


 畑の芽は、まだ小さい。


 明日も大きくなるとは限らないし、見た目には何も変わらない日もあるだろう。


 それでも、毎日少しずつ様子を確かめていけば、気づけることが増えていく。


 明日もまた、畑へ行こう。


 リオはそう思いながら、温かいスープを最後まで飲み干した。

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