第20話 明日も見に行こう
翌朝。
リオが朝食を食べ終えると、リナがやってきた。
「おにいちゃん」
「どうしたの?」
「め、みる」
「ああ、昨日の芽?」
「うん」
リオは笑った。
「じゃあ一緒に行こう」
父と母に声をかけ、二人で畑へ向かう。
リナはリオの手を握って歩いている。
まだ歩く速度は遅い。
途中で何度も立ち止まる。
「おにいちゃん」
「何?」
「あれ」
「石だよ」
「いし」
「そう」
そんなやり取りをしながら、ゆっくり畑へ向かった。
畑に着くと、リオは芽のところまで連れていった。
「ほら、これ」
リナはしゃがみ込む。
「ちいさい」
「昨日より少し大きいよ」
本当に少しだけ大きくなっている。
リオには、それが分かった。
「どうして大きくなるの?」
「水を飲んで、太陽を浴びるからかな」
リオは父から聞いた話を思い出しながら答えた。
そこへガイルがやってきた。
「ちゃんと覚えてるな」
「うん」
父は笑った。
「作物は急には大きくならない。毎日少しずつだ」
リオは芽を見る。
「人も?」
「そうだな」
「じゃあ、リナも?」
「もちろん」
リナは話の意味が分からないまま、芽を見ている。
リオは妹の頭を撫でた。
「リナも大きくなるよ」
「おっきくなる」
「うん」
そのあと、エマたちがやってきた。
「リオ、もう来てたんだ」
「リナに芽を見せてた」
「私も見る!」
トーマとカイルも一緒に覗き込む。
昨日と同じように、みんなで芽を見る。
ただ、それだけだった。
誰かが強い力を見せるわけでもない。
大きな事件が起きるわけでもない。
村に危険が迫っているわけでもない。
ただ、小さな芽が土から顔を出している。
それを子供たちが囲んでいる。
それだけの時間。
けれど、リオにとっては大切な時間だった。
午後。
リオは家へ戻り、母の手伝いをした。
ノアは父の畑仕事を手伝っている。
アルドは帳面に何かを書いている。
リナは家の中で遊んでいる。
いつもと変わらない。
夕食の時間になれば、家族全員で食卓を囲む。
「今日は何したの?」
母が聞く。
「芽を見た」
「それだけ?」
「うん」
リオは笑った。
「でも、昨日より少し大きかった」
父も笑った。
「明日も見に行くか?」
「うん!」
その返事は迷いがなかった。
明日も畑へ行く。
芽を見る。
少しだけ大きくなったかもしれない。
大きくなっていないかもしれない。
それでもいい。
毎日少しずつ。
作物も。
家族も。
そして自分も。
気づかないほど小さな変化を重ねながら、時間はゆっくりと流れていく。
夜。
布団に入ったリオは、明日の畑のことを考えていた。
行商人がまた来るのは、まだ先かもしれない。
街へ行く日も、まだずっと先だろう。
でも、今はそれでいい。
明日は明日の畑がある。
明日は明日の遊びがある。
そして、明日になれば、今日より少しだけ違うものが見えるかもしれない。
「明日も見に行こう」
小さく呟いて、リオは目を閉じた。
村の夜は静かだった。
そして翌朝もまた、いつものように太陽が昇る。
農家の三男、リオの一日は、今日と同じように始まっていく。
ゆっくりと。
何も急がずに。




