第16話 アルド兄ちゃんの帳面
次の日。
リオが畑へ向かうと、アルドが一冊の帳面を持っていた。
「兄ちゃん、それ何?」
「昨日の記録」
「何の?」
「畑の記録だよ」
アルドは畑を見ながら話した。
「ここには、いつ何を植えたかを書いてる」
「父さんと同じ?」
「父さんの手伝いをするときに、俺も覚えてる」
リオは帳面を覗き込んだ。
文字はまだ全部読めない。
でも、数字や簡単な印なら分かる。
「これ、去年?」
「ああ」
「毎年書くの?」
「できるだけな」
アルドは少し考えてから続けた。
「去年と同じようにやっても、同じくらい取れるとは限らないから」
「どうして?」
「天気とか、土の状態とか、いろいろある」
リオは空を見上げた。
今日も晴れている。
「雨が降ったら?」
「水が多すぎることもある」
「じゃあ晴れてればいいの?」
「それも違う」
「難しい」
アルドは笑った。
「だから記録するんだ」
リオは帳面を見た。
小さな数字が並んでいる。
そこには、去年の家族の生活が残っている。
誰かが植えた。
誰かが育てた。
誰かが収穫した。
そして、それを来年に役立てる。
「兄ちゃんは農家のこと、いっぱい知ってるね」
「まだまだだよ」
「父さんより?」
「父さんには敵わない」
アルドは笑った。
「でも、俺も少しずつ覚えてる」
その言葉を聞いて、リオは昨日の母の言葉を思い出した。
少しずつ。
兄も同じなのだ。
何でも知っているように見えるけれど、兄も毎日覚えている。
その日の午後。
アルドはリオに簡単な数字を教えてくれた。
「これは三」
「三」
「こっちは五」
「五」
「じゃあ、これとこれを合わせると?」
リオは少し考える。
「……八?」
「正解」
嬉しくなった。
文字だけではなく、数字も少しずつ分かってきた。
「兄ちゃん」
「何?」
「僕もいつか帳面を書ける?」
「書けるようになるさ」
「いつ?」
「練習したらな」
リオは頷いた。
畑の作物も、文字も、数字も。
すぐには大きくならない。
すぐには覚えられない。
だからこそ、毎日少しずつやっていけばいい。
そう思えるようになってきた。




